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プロローグ

 ……え、えーと、誰かこの状況を説明してくれ。  上司に誘われて飲みに行った後の記憶がない。目覚めてみると見知らぬ部屋のベッドの上。  一糸(いっし)(まと)わぬしどけない姿、隣りには同じくしどけない格好の課長。気怠い身体、尻の奥に微かに遺る異物感。  んで、心なしか尻の穴がひりひりする……、ぞ?  いったい俺の身に何が!?  その時、 「……ん」 「うわあ!」  不意に生暖かい裸体が俺に抱き着いて来たから、俺は奇声を上げてしまった。 「あ、佐々木くん。起きた?」  俺に抱き着いた課長は枕元を手探りで確認し、いつもの眼鏡を掛けて無邪気な笑顔を見せる。 「ごめんね? 可愛いかったから思わず……」 「思わず!?」  ……その後の台詞は聞きたくない。  課長がそちらの人間だってことは、社内での噂で知ってはいた。課長に飲みに誘われた時、不安が頭を(かす)めなかった訳でもない。しかしこのぽよよんとした、仕事以外では頼りなさそうな上司(おとこ)を上手く言いくるめる自信はあったのだ。  酒が弱いほうではない俺は課長に酒をすすめられ、それを飲み干しながら同量の酒を課長にもすすめた。勝つ自信はあったのだ。なのにこの男は真っ赤になりながらも酔い潰れることはなく、どうやら俺のほうが潰れてしまったらしい。 「……帰ります」 「も少しゆっくりしてけば? 今日は休みだし。初めてのことで疲れたでしょ?」 「――っっ!?」  そんな無邪気な顔で何を言うんだよ!?  その笑顔の裏に危険を感じ、俺は慌てて脱ぎ散らかした着衣を掻き集めた。 「……つつ!」 「ほらあ。ちょっと出血してたみたいだし、も少しゆっくりした方がいいってー」 「おわっ!?」  すると、信じられない力で抱きすくめられる。因みに課長は空手の有段者らしい。身長が180センチちょいの俺より20センチ近くも背が低いくせに、その力はどこから出るんだよ?!  子供じみたその容姿からは想像もつかない力で組み敷かれる。まるで子供みたいに手足をばたつかせ、俺は課長から逃れようともがいた。 「……もしかして覚えてない?」 「え、えーと……」  しっかりとヘッドドロップを決められたまま耳元で哀しそうな声。課長はそのままぽつりぽつりと、しかし克明に昨夜の出来事を語り始めた。

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