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第7話 忘れたい過去とざわつく心③

 翌日の新人歓迎会は、職場近くの居酒屋で行われた。  実際は歓迎会とは名ばかりのただの飲み会。復職組の社員たちの間では元々こういった飲み会が日常的に行われているのを暁人も知っている。  社員同士の仲が良く、これまでも仕事帰りに皆で連れ立って飲みに行く姿を暁人も見掛けていた。暁人もたまに声を掛けられてはいたが、理由を付けて断っていた。  集まったのは宴会サービス課の面々が二十人ちょっと。その中で新卒、転職を含めた新人が七人。暁人のような転職組はたった三人だった。  葉山の一声による形だけの乾杯をしてから小一時間ほどすると、皆最初に座っていた席から思い思いの席に移動し、好きなように過ごしている。この三週間におよぶ研修期間中にそれぞれの社員たちがお互いに距離を縮め、そこには新人・復職組という隔たりはすでに存在しなかった。  そんな暁人の隣には竹内、テーブルを挟んだ向かいに葉山という普段の休憩時とさほど変わらない席順だ。葉山の隣には主任の大久保、その隣には立花、一番若い市村と続き、女子トークを繰り広げている。  皆、思い思いに料理を注文し、頼んだ料理がなくなると誰がというふうでもなく自然に空いた皿を隅に重ねて片づけていくのはある種の職業病のようなものか。 「オープンまで、あと一週間っすね」  竹内が運ばれてきたばかりのビールに口を付けながら言った。 「早いもんだな」  入社式のあとも継続して続けられていた一部の改修工事も無事に済み、各部署の準備も着々と進み、あとは一週間後のオープンを待つばかりだ。 「柴くん、平気? 少しは緊張してる?」 「……はい、多少」 「けど、柴は変わらなそうだな。クールっつうか。表情筋死んでるし」  冗談交じりの葉山の言葉を、暁人は苦笑いで受け止めた。 「いや、死んでませんから」 「はは、確かに。柴くん、あんま表情変わんないもんなぁ。すっげー笑ったとことか見たことない」 「そんなことないですよ。笑います、楽しければ普通に」  ──そう、楽しければ。笑えるはずなのだ、人並みには。 「柴くん、趣味とかあんの? 何かスポーツとかする?」 「いや。スポーツはあんまり……」  全くできないというわけではなく、体育などは人並みだったし、中学・高校と一応バレー部に所属していたが、レギュラーを勝ち取れるほどの実力はなかった。 「え、インドア派? あ、ゲームとかする系?」 「ゲームもたまにやりますけど嗜む程度です。趣味と言えるレベルでもないというか」 「えー! じゃあ、何してんの。休みの日とか」 「家で寝てます」 「うっわ、若いのに不健康……他には?」 「そんなこと聞いてどうするんですか。俺なんか何聞いても面白いこと出てきませんよ」  次々と質問を浴びせてくる竹内に暁人が少し不機嫌な口調で答えると、竹内が一瞬驚いた顔をしてから白い歯を見せて笑った。 「いや。そういうミステリアスなとこが逆に興味深いよ。そう思いません? 葉山さん」 「ああ、確かに」  竹内の言葉に葉山も同意するように深く頷いた。 「俺に興味なんてもたなくていいですよ」  誰にも、興味を持たれなくなどない。ただ静かに生きていきたいだけだ。誰にも蔑まれることなく、ごく普通に。

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