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第9話 リニューアルオープン①

3  リニューアルオープン  松浜クラウンホテルのリニューアルのプレオープン当日は、館内で一番広い宴会場であるガーネットの間で盛大なレセプションパーティーが行われる。  オープンは十時。ホテルの前にはすでに大勢の招待客が詰めかけている。  真新しい制服に身を包んでいるだけで自然と背筋が伸びる。緊張を誤魔化すように暁人が小さく息を吐くと、その背中を竹内がドンと叩いた。 「柴くん、緊張してんの? 顔面死んでるよ。スマイルスマイル!」 「この間も言いましたけど、顔面死んでるは酷くないですか」 「だって、本当のことだもん。柴くん、イケメンなんだからさー、そんな強張った顔してたら勿体ないって」 「そんなこと言われても……」  普段、笑うことに慣れていないのだから急に笑えと言われても難しい。 「そういう緊張って、お客さんにも伝わるよ? ホテルマンがガッチガチになってたらお客さんの方が不安になるじゃん。余裕見せろとは言わないけど、少しだけ肩の力抜いてみな?」  笑顔の竹内に言われて意識して肩の力を抜くと、ほんの少しだけ緊張が解れたような気になるから不思議だ。復職組はともかく、新人組は揃いも揃って暁人と同じように緊張していた。初めて人前に出て仕事をするのだから当然と言えば当然だ。  そうこうしているうちに、これまで一度も顔を出していなかった葉山がパントリーに入って来た。 「皆、おはよう。そろそろミーティング始めるぞ」  葉山が来るだけでその場の空気が変わる気がする。そんな変化を一層強く感じたのには、他にも理由があった。 「葉山さん、昨日までとは別人っすね」  研修の間に少し伸びて来ていた髪を短くカットし、ほとんど手入れのされていなかった髭を綺麗に剃って来ていた。真新しい真っ黒なタキシードに身を包み、これまで掛けていた黒縁の眼鏡を外した葉山は昨日までとはまるで別人のようだった。 「葉山さんってよぉーく見るとイケメンだったんですねぇ」  暁人と同じ新人の女子社員である市村が驚いたように呟くと、それを聞き逃さなかった葉山が「よく見るとって何だよ……」とはにかんだように笑った。  その笑顔自体は見慣れたものだったが、身綺麗になった葉山はさらに精悍さを増し普段とはやはり雰囲気が違っていた。 「じゃあ、ミーティング始めるぞ」  葉山がそう言って、今日のレセプションパーティーの流れを説明し、それぞれの仕事の担当割り振りをした。  ドリンクを提供するバーカウンターやパーティー中の料理番は主に経験者が、実質今日がデビューである新人組はひたすらテーブル回りを担当するという割り振りだった。

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