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第20話 暴かれた秘密①
6 暴かれた秘密
《──最後になりましたが、ご列席の皆さま方のご健康とご多幸をお祈りして、私たち二人の挨拶に代えさせていただきます。本日は誠にありがとうございました》
新郎が挨拶をし、会場が大きな拍手に包まれた。
暁人は会場の後方の扉を開け、新郎新婦がこのあと列席者たちを見送るため会場外に移動する準備を整え、再び会場内に戻り列席者が会場の外に出て行くのを見送った。
「柴嵜くん、各テーブル忘れ物ないか確認して」
「はい」
今月に入ってからもう七件目の結婚披露宴。やはり今でもジューンブライドは人気があるようで、週末の宴会場はほとんど披露宴の予約で埋まっていた。普段の宴会とはまた少し雰囲気が違うが、こうした披露宴のサービスに入るのにも少しは慣れた。
各テーブルに忘れ物がないか確認し終えると、スタッフはすぐさま会場の片付けに入る。次の宴会予約に備えるためだ。婚礼用の円卓を片付けて、明日の講演会用の椅子を準備する。案件ごとにセッティング内容が変わる為、その都度繰り返されるこの作業はかなり体力を使う。実際入社して数カ月で、腕の筋肉がかなりついた。
セッティングが済んで暁人がパントリーに戻ると、先に戻っていた竹内と葉山が手配書のファイルを捲っていた。これから昼休憩だ。
「ああ。柴くん、お疲れ。昼行こうか」
戻った暁人に気付いた竹内がそう言ってファイルを閉じた。
「それにしても来週は結構大口の予約が多いですね」
「ああ。タイセイ保険の懇親会に、桐朋高校の同窓会。オザキ部品の創業七十周年記念パーティー。どれも三百人規模だな」
そう何気なく言った葉山の言葉に暁人がはっとしたのは、最後に葉山が口にした案件が暁人が以前勤めていた職場の案件だったからだ。
創業記念パーティー?
暁人が勤めていた頃にはそんなものなかったはずだが、よく考えてみれば暁人が勤めていたのはたかが三年。たまたまそういった節目の行事がなかっただけのことで、同じ市内にある会社で、大人数のパーティーをということになれば、会場としてうちを利用するのも何も不思議なことではない。
「そーいえば……オザキ部品って、柴くんが前に勤めてたとこじゃなかったっけ?」
入社してすぐの頃にした暁人の話を覚えていた竹内が訊ねた。
「はい……」
「もしかしたら知り合いとかいっぱい来るんじゃない?」
竹内の問いに、暁人はそんなの冗談じゃないという気持ちだったが、
「あ、いや。同じ職場に居ても部署が違うとほとんど顔を合わせなかったりするので」
それを悟られないよう当たり障りのない返事を返した。
「えー、そんなもんなの?」
「他部署と関わりの多い営業とかだとまた違うと思うんですけど」
「そうなんだ」
竹内がそれに納得して「とりあえず、昼飯行きますか」とそこで話が終しまいになったことに暁人は心からほっとした。
以前の職場のことにはあまり触れられたくはなかった。あの頃のことを思い出すだけで胸が苦しくなる。
嫌がらせは業務中にまで広がり、大切な仕様の変更を自分だけが知らされずに業務に支障をきたし、損害を出すまでとなった。同僚たちには白い目で見られ、そのうち仕事さえ取り上げられた。
いたたまれなかった。ここにはいられないと思った。精神的に追い詰められ、身体が職場に行くことを拒絶して悲鳴を上げていたのだろう。出勤することすら困難になる状態が数カ月続き、結局自主退職という形で会社を辞めた。
仕事を辞めたら楽になった。職場の人間に二度を会わないで済むと思うだけで随分と心が軽くなった。たぶん、壊れる寸前だったのだ。
もう、二度と関わりたくはない──あんな思いをするのは嫌だ。嫌がらせの数々を思い出すだけで今でも身体が震える。
「柴くん? 顔色悪いけど、どうかした?」
竹内の問いに「大丈夫です」と答え、「飯、先に行って用意してます」と暁人は出来る限りの平静を装ってさりげなく二人の傍から離れた。
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