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第21話 暴かれた秘密②

   *  *  * 「柴―! どこ行くんだ、それパールの間だろ」  葉山に呼び止められ、暁人は手にしたクロスを見てはっとした。 「あ、すみません……」 「どうした? おまえここ最近ちょっと抜けてるぞ。調子悪いのか?」 「いえ。大丈夫です」  実のところ、週末の前の職場の創業記念パーティーのことが気になっている。  オザキ部品は、この辺りでは知らない者はいないほどの有名企業だ。パーティーに果たして暁人に嫌がらせをしていた男たちが参加するのかは分からないが、もし──と思うと恐怖で動悸が酷くなる。  暁人に嫌がらせをしていたリーダー格の男は一応役職者であることから、この創業記念パーティーに出席する可能性も高い。  今のところ、暁人がパーティーの担当に付くかどうかさえ分からないが、もし万が一あの男と会ってしまったら──と考えると果たしてその時自分がどうなるのか想像がつかなくて怖いのだ。 「あの、葉山さん……」 「ん?」 「明後日……金曜の、オザキ部品のパーティーなんですが。俺を担当から外してもらう事はできますか? できれば、他の宴会の担当に付けて欲しいんですが」  暁人の申し出に葉山が一瞬怪訝な顔をした。 「まぁ……それは構わないが。何か、事情があるのか?」 「ええ、まぁ。事情があって、正直……円満退社というわけではなかったので、できればオザキの人間に会いたくないといいますか……」  詳細は話すつもりはないが、事情があるということは葉山に伝えておきたかった。 「詳しくは触れるな、って感じだな。おまえ動きいいし、転職していい仕事してんの元同僚たちに見てもらうのもいいかと思ったが……事情があるんなら仕方ないな。オザキのとこは外してやる。おまえがそんなこと言ってくるなんて余程のことなんだろ」 「……ありがとうございます」  葉山のこういう物分かりのいいところがありがたい。何かを察して、それ以上深く追求してこないところも。これまでもずっとそうだ。暁人を気に掛けて何かと構ってはくるが、暁人が触れられたくないところに土足で踏み込んでくるようなことはない。  いい意味で大人な彼に助けられている──。  暁人がパールの間に戻り、手にした束のクロスを各テーブルに配って行くと、他のスタッフが一斉にクロスを掛けていく。 「柴くん、クロス終わったらチャーフィンの足と延長コード二本用意しといて」 「あの竹内さん。コードって裏でしたっけ」 「入ってすぐの棚」 「ああ。ありがとうございます」  慣れればこういう仕事も悪くないと思っている。  以前、竹内にこの仕事が楽しいと思えるようになればいいなと言われたことがある。身体はきついし、拘束時間は長いし、大変なことも多いが、同僚たちは皆優しいし、他人から受ける精神的苦痛がないというだけで心が軽い。そういった意味ではここに来て良かったと心から思っている。

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