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第24話 暴かれた秘密⑤

「葉山さん、お願いがあります」  頬に流れる涙をどうにか拭って、暁人は再び顔を上げた。 「俺がゲイだってこと……」 「分かってる。誰にも言うつもりはない。ここの連中がどうかは分からないが、世の中には偏見ってものが存在するのは理解してるしな」  そう答えた葉山が小さく息を吐いた。  それから暁人は、いまだ暁人の肩に手を置いたままの葉山を見詰めた。 「葉山さんは……気持ち悪くないんですか、俺のこと。さっきから、肩……」  暁人が言うと、葉山がはっとしたように慌てて手を離した。 「あ──悪い。嫌だったか?」 「いや。葉山さんが嫌なんじゃないかと……」 「嫌……って何だよ。ゲイだからって、べつにおまえへの見方変わるわけじゃないしな」 「いや……変わります、普通」 「そういうもんか? 男が好きっつったって、アレだろ? たかが好みの問題だろ? 例えば、イケメンが好きとか、マッチョが好きとかその程度の。俺は異性愛者だから、男に対して恋愛感情は湧かないけど、同じ男にでも可愛いなとか、カッコイイなっていう気持ちは湧く。そういうのとそこまで変わんないんじゃないのか?」  と、まるで何でもないことのように言った葉山の言葉に、なんと言葉を返していいのか分からず暁人は苦笑いを返した。 「全然違いますよ」  人間愛はきっと誰にでも存在する。けれど、恋愛感情というものはもっと生々しいものだ。  口ではこんなふうに言っている葉山でも、きっと同じ男に性的な目で見られているとしたら、それはやはり嫌悪の感情に繋がるかもしれない。 「よくわからないけど。少なくとも、俺は柴を気持ち悪いとは思わないし、これからもおまえに対する態度を変えるつもりもない。おまえがどんなやつだろうと、俺が知ってる柴は柴だからな?」  そう言った葉山が、暁人の頭をくしゃくしゃと撫でた。 「いいじゃん。おまえは、おまえってことで」  手を離した葉山が、はっと思い出したように腕時計を見て顔色を変えた。 「俺、先行くわ。竹内に仕事頼んでそのまんまだった。どこで油売ってんだって怒られちまう」 「あ、じゃあ……俺も」  暁人が慌てて椅子から立ち上がると、葉山が「いいからいいから」とそれを制した。 「おまえ、顔酷いから、トイレで顔冷やしてマシになってから来い。他の奴らには適当に言っとくから」  そう言って、葉山が慌てた様子で宴会場を出て行った。  静まり返った宴会場をぐるりと見渡して、暁人は小さく息を吐いた。  ──不思議だ。葉山に自分がゲイだということがバレてしまったというのに、なぜかすっきりとした気分だった。  目の前が暗くなるような気分であったはずなのに、どこかすっきりとして、心が嫌な予感にざわつかないのは、ここ数カ月間の葉山の言動を通して、彼がこのことを口外しないであろうという妙な自信があるせいかもしれない。 「なんだろ……本当」  誰も信用できない──そう思っていたはずなのに、いつの間にか葉山のことを信頼している自分がいる。  初めてだった。こんなふうに暁人が本当の自分を晒してしまった相手は。  暁人はもう一度息を吐いて、トパーズの間を出ると、すでに辺りは静まり返っていた。ガーネットもパーティーの片付けが済んだのだろう、すでに扉が閉まっている。

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