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第34話 感情を抑える方法④

 医務室の扉を開けると、奥のベッドに葉山が一人寝ているだけだった。傍に行って顔色を窺ったが、見た目にはよく分からない。仕事が落ち着いてからすぐ医務室に連れて来られたのだろう。蝶ネクタイは外しているが、ピンタックシャツを着たままだ。 「竹内……?」 「竹内さんはいまパントリーの鍵返しに行ってます」 「ああ……その声は、柴か」  葉山がゆっくりと目を開けて暁人を見上げた。自身の影のせいで顔色までははっきりと分からないが、確かに熱があるのか普段より生気のない目をしている。 「熱あるって、竹内さんから聞きました。方向一緒なんで家まで送ります」 「お、マジでか。悪いな」 「いえ」  ちょうど会話が途切れたタイミングで、医務室の扉がノックされて竹内が顔を出した。 「葉山さん、お待たせっす! 具合どうすか?」 「そこまで酷くはないけど……おまえのテンションがちょっとキツイ」  葉山の言葉を聞いて、暁人は小さく吹き出してしまった。 「うわっ、なにそれ失礼だな! てか、柴くんまで笑うの酷くね?」 「はは。元気なのはおまえのいいとこだけど、病人目の前にしてるときくらいもうちょいテンション下げてくれ」  そんな二人のやり取りに暁人は少しほっとしていた。酷い高熱だったらと心配していたが、軽口を叩ける程度には元気だということが分かる。 「玄関前に待機タクシーいたんで、掴まえておきました。じゃ、行きましょう」 「ここ戸締りはいいのか?」 「大丈夫です。フロントに頼んで来たんで」  そう言った竹内が葉山に上着を羽織らせてそのまま肩を貸し、暁人に葉山の荷物を預けた。暁人は預けられた荷物を抱えてそのまま正面玄関へと向かう二人の後を追った。  葉山をタクシーの後部座席に座らせると、竹内が「柴くん。頼むね」と暁人にあとのことを託した。 「分かりました」  葉山の荷物を抱えたまま暁人もタクシーに乗り込み、運転手に行き先を告げた。  平日の夜で道が空いていたこともあって、葉山のマンションまで思ったより時間は掛からなかった。

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