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第46話 溢れる感情④

「う、っ……」  ずっと堪えていた涙が目尻から零れ落ちた。  本当は素直になりたい。この人に好きだと言いたい。許されるのなら甘えてしまいたい。けれど、それができない──してはいけないのは分かっている。 「柴……泣くなよ」  葉山が暁人の頭をそっと撫でてから「悪かった」と謝った。 「おまえだって好きでそういうことしてんじゃないのは分かってる。けど、実際あんな現場見たらなんか頭カッとなって……怒鳴ったりして悪かった」  そう言った葉山が、玄関のドアを背にしゃがみこんだままの暁人をそっと抱き締めた。  一瞬なにが起こったのかと思ったが、そんな行動も葉山らしい気がした。普段の彼を見ていれば相手が暁人であろうと他の誰であろうと包み込んでしまいそうな気がする。 「変なのに絡まれて──男とはいえ、怖かったろ」  葉山のその言葉に、恐怖と緊張とで固まっていた暁人の身体からゆるゆると力が抜けていくのが分かった。それが分かったのか、彼が小さく笑った。 「はは。急に力抜けたな……やっぱ怖かったよな。おまえがそう感じてたなら必死で助けた甲斐があったわ。つーか、三十路に全力疾走させんなっつうんだよ。足攣るかと思ったわ」  葉山が笑いながら優しく暁人の背中を撫で、その手の温かさにまた胸が熱くなって涙が零れた。  ──ダメだ。やっぱ、どうあがいても好きだ。  そう心の中で呟いたとき、暁人の背中を撫でていた葉山の手が止まった。それから、葉山がゆっくりと身体を離して驚いたように暁人を見つめた。 「……いまの、俺のことか」 「え」 「俺が、好きなのか」  そう訊かれて暁人ははっとして思わず口元をおさえた。  ──もしかして、さっきの口に出てた?   心の中で呟いたはずの言葉が無意識に口に出してしまっていたなんて思いもよらなかった。 「いやっ、違っ……」  慌てて腕で顔を隠した。身体中の血液がカッと頭に向かって流れて行くような感覚があって、顔が思いきり熱を持つ。その熱さに自分がいまどんな顔をしているのか、想像がついてしまうことでさらに恥ずかしさが増していく。 「あの、違っ。そうじゃない……」  ダメだ。認めたらダメだ。  どうにかして誤魔化さなければと思えば思うほど、頭の中が真っ白になっていく。普段は同僚たちにクールだなんて言われているが、そう振舞っていられるのも、彼らが暁人にとってただの同僚以外の何物でもないからだ。

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