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第57話 怖がり猫の愛し方③

「ほら、どうした? するんだろ、準備」  葉山が促すと、柴嵜がベッドサイドのローチェストの引き出しからローションとゴムを取り出した。葉山の視線を感じて恥ずかしそうにしながらも、葉山に身体の正面を向けたまま、聞き手の右手を後ろにまわして準備を進めていく。  その場限りの相手と身体の関係を持っていたというだけあって、柴嵜がこういった行為に慣れているように見えたことに、嫉妬にも似たもやもやとした気持ちが湧き上がった。 「……はぁ、っ」  時折柴嵜が零す熱い息と、切なげに身体を捩る姿が葉山の目にやけに艶めかしく映る。  目の前で人に見られているからなのか、もどかしそうにやりづらそうに何度も何度も動きを止める柴嵜に葉山のほうが焦れて、ついに柴嵜の身体を引き寄せるとゴムの入った箱に手を伸ばした。 「やっぱり、手伝う」 「ちょ、葉山さ……」  指にゴムを装着し、ベッドの上に転がったローションを掴んでとろりと手のひらにのせると、そのまま引き寄せた柴嵜の臀部に指を這わせた。葉山が指を探るように動かすと、その刺激に柴嵜の身体がビクッと跳ねた。 「……待ってくださいっ、あの」  柴嵜の熱い内壁をゆっくりと犯していく感覚が薄いゴム越しに指に伝わってくる。葉山が中に深く指を沈めると、柴嵜の身体がひくひくと反応した。 「充分待ったよ。俺もそろそろ限界なんだ」  葉山の指の動きに敏感に反応した柴嵜の身体が、目のまえで激しく揺れる。  自分でも信じ難いことだが、そんな柴嵜の痴態に自信が萎えるどころかさらに興奮が高まってきている。身体中の血液がそこに集まって痛くて堪らないほどだ。  現に男の尻に指を突っ込んでいるのに、嫌悪感を抱くどころか中を弄られて頬を赤く染め熱い息を零す柴嵜に欲情している。 「なぁ、柴。指増やすぞ」 「は……いっ、……っあ!」 「悪い。痛かったか?」 「……そうじゃなくて。なんか、いつもと違っ」  そう言って葉山の肩を掴む手に力を込めた柴嵜に対して、心の奥に再びもやもやとした感情が湧き上がった。 「──いつも、か」  柴嵜はこれまで一体どんな男たちを相手にしてきたのだろう。何人の男と関係を持っていたのだろう。  考えても仕方がないことなのに、自分の拙さを他の男と比べられているようで面白くないなどと思うのも我ながら大人気ないと思う。大人気ないと分かっていながら、彼の過去の行きずりの男たちに負けまいと指の刺激を強く変えると、柴嵜が声にならない短い悲鳴を上げた。 「……葉山さ、っ。それダメ」 「痛いか?」 「違っ……」 「じゃあ、なんだよ」 「なんか……ヤバイんです。俺、初めてなんですよ。好きな人とこういうことすんの。こうして身体合わせてるのに現実味が全然なくて……なんか夢みたいに頭ふわふわして」  蕩けた声で零した柴嵜の言葉に胸が熱くなった。  本当にどこまで──。  これまで生きて来たなかできっと何度か恋をしただろうに、それが実ることがなかったのだろう。身体を重ねた相手がいたのに、それはただのセックスという行為であっただけで、本当の意味で愛されたことがなかったのだ。 「夢みたいとか……大袈裟過ぎるだろ」  愛されることに臆病な柴嵜をまるごと包んでやりたいと思った。人に大切にされる──愛される幸せを与えてやりたいと思った。

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