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第56話 怖がり猫の愛し方②
「んむ……」
ますます熱を帯びていく息遣い、身体にじんわりと滲む汗。
柴嵜がキスを落とす位置が次第に下へと移動し、その手が葉山の股間の硬化を合わせた指の背でそっと確かめてからズボンに手を掛けた。彼の手の上にそっと自分の手を添えると、柴嵜が一瞬動きを止めた。──が、それは本当に一瞬のことで、葉山のズボンのファスナーをずらして下着の上から熱の集まった部分を軽く口に含んだ。
「……っ」
堪えきれず小さく声を漏らすと、柴嵜が上目遣いでこちらを見上げながら、下着をずらして葉山のモノを直接口に含んだ。そっと食むように口を動かしたかと思えば、舌で根元から先端までを何度も何度も舐め上げる。舌先で先端を刺激したり、ふいに強く吸い上げたりしながら時折「はぁっ、あ」と興奮したように小さな声を漏らし、その声に葉山自身がまた反応する。
「……おまえ。ほんとエロい顔するのな」
葉山が声を掛けても、その声が届いていないかのように夢中で行為にふけっている。
「……はぁっ」
こんなにも夢中で求められたことがあっただろうか。こんなにも必死に──。
柴嵜を見下ろしたまま前髪を手で梳いてやると、彼が葉山を見上げて恍惚の表情を浮かべた。その表情を見た瞬間、全身をゾクゾクとした感覚が這い上がり、自分のなかにある何かのスイッチが押されてしまったような気がした。
──ああ、ヤバイ。
葉山の昂りを貪り続ける彼を引き離すように額を抑えると、柴嵜が再び葉山を見上げようやく口を離した。
「……あんまりよくなかったですか」
「逆だ、逆。よ過ぎんだよ。いいから、こっち」
中途半端な状態になっているズボンを自身で脱ぎ捨て、柴嵜の腕を掴んで身体ごと引き上げた。そのまま柴嵜の下も脱がせて下着だけの状態にすると、再び膝の上に抱え上げてキスをした。口の中に葉山自身の先走りの苦みが広がったが、柴嵜の唇から伝わるその味に興奮すら覚えている自分に驚いていた。
「……俺も大概だけど、柴のココももうすげぇな」
葉山がそこに触れてさえいないのに、柴の興奮が下着越しにでも充分なほど伝わって来る。
「痛いくらいです」
「俺の咥えてるだけで?」
「……すみません」
「はは。なんで謝るんだよ。なんつうか、未知の扉開けた感じだわ。おまえ相手にこんなに興奮してる自分に戸惑ってる」
そう言って柴嵜の頬にそっと手を添えると、至近距離で目と目が合った。咄嗟に顔を背け視線を逸らした柴嵜の顎を掴まえて、もう一度目を合わせた。
「けど、悪くない。おまえをもっと知りたい……」
そっと唇を寄せると、柴嵜が葉山の手をぎゅっと握った。空いてる右手で彼の下着からすでにはち切れそうに硬化したものを引き摺り出して自分のものと一緒に握ってゆっくりと擦り合わせた。
「──っ、葉山さ」
「いいから。おまえも上から握って」
「はぁ……っ。気持ちい……」
「ん。俺もだ」
そのまま体重をかけて柴嵜をベッドの上に押し倒した。
「あの、葉山さ……」
「このまま抱いてみたい──って言いたいとこだけど、さすがにアレか」
気持ち的には充分にイケる気がしているが、柴嵜はともかく自分は男を抱いた経験はない。
正直、男同士のセックスの知識なんてネットで軽く調べた程度でしかないし、素人の自分が柴嵜の負担にならないように抱くことができるだろうかと躊躇もする。
「経験もねぇし、よく分からないけど無茶なことしでかしておまえの身体傷つけても嫌だしな……」
葉山が小さく呟くと、柴嵜がゆっくりと身体を起こして葉山の身体に腕をまわしながら、肩に額をのせた。
「柴……?」
「葉山さんが無理じゃないなら止めないでほしい。俺が、動きますから。……ちょっとだけ準備させてください」
そう言った柴嵜が腰を上げて、ベッドの上に立膝をついた。
「なぁ、柴。準備って?」
なんとなくの予想はつくが、確かな知識ではないうえに間違っていてもいけない。自分が手伝えることであればと訊ねると、柴嵜が恥ずかしそうに俯いた。
「い、いきなりは挿れられないので、そのっ……」
「ああ。後ろ解すってことか?」
「まぁ……そうです。簡単に言えば」
「それ、俺がしたいって言ったら?」
葉山が訊ねると、柴嵜がとんでもないというふうに慌てて首を振りながら答えた。
「む、無理ですっ。ていうか、ダメです! 好奇心だけでそんなこと言うもんじゃないです」
「好奇心は否定しないけど、それだけじゃない」
具体的なやり方を知っているわけじゃない。けれど、単なる好奇心や探求心というより、どちらかといえば自分が柴嵜にできることをしたいという気持ちのほうが大きかった。
「ダメなら見てる。その代わりじっくり見るぞ? やり方知りたいからな」
葉山が言うと、柴嵜が苦悶の表情を浮かべた。
手を出されるのも嫌だが、準備しているところをじっと見つめられるのも嫌だというところで闘っているのだろう。こうしてみればやはり表情に乏しいわけではないということが分かる。そんな苦悶の表情すらどこか可愛らしく見えてくる。
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