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第2話
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僕は地元の公立中学校へ進学した。春の遠足や、運動会があり、初めての中間テストを無事に終え、更衣があって、プール指導が始まっていた。
平泳ぎで二十五メートルを進み、泳ぎ終えてプールサイドへ手をついて飛び上がった。ざらざらするコンクリートの上を裸足で歩く。指定された場所へ体育座りしようとしたとき、先に座っていたヤツが僕を見上げながら言った。
「宇佐木 、乳首デカいな。女の乳首みたい。エッロ。いじるとデカくなるんだってさ。いじってるの?」
僕はその目をほんの短い時間見返したが、すぐに目を逸らし、黙って体育座りをして膝を抱えた。髪から垂れた滴が頬にぽたぽた落ちた。
明るく言い返したり、一緒になって笑ったり、下ネタをさらさらと話せる能力があればよかったけれど、そんな高等技術は持ち合わせていなかった。
話しかけてきたヤツもしらけた様子で反対側に座る生徒と会話を始め、僕は膝を抱いたまま、プールの水が太ももから尻を伝ってコンクリートに広がっていく感触に一人で耐えた。
塩素のきついプールの水が精液の匂いと似ていると知ったのは、小学五年生の頃だった。部屋のドアに鍵をかけ、ベッドの上で自分の身体を触っていたら、突然黄色みを帯びた白い粘液が出てきて、炭酸水が噴き出すような快感があった。それからほぼ毎日、ときには一日数回も、僕は我慢できずに手を掛けて、プールの匂いを放っていた。でもプールの匂いと精液の匂いって似てるよねと話せる友だちは、僕にはいなかった。
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