「さっきはごめんな」 　乳首の大きさを指摘してきたヤツは、更衣室で灯に何か耳打ちされて、すぐに真面目な表情で謝ってくれた。僕もその謝罪を受け入れ、すべては丸く収まった。 　けれど、一度沸き上がった悩みは瞬時には解消されなかった。意識して見回せば、体操着も、夏服の白い開襟シャツも、自分だけ乳首の形がくっきり浮き出ているようだった。 　授業中も気になって、どうしたら目立たないかを考えた。なるべく肩を前に出して寄せ、背中を丸め、シャツの前身頃を弛ませて、胸の突起を隠しながら過ごした。 「男は上半身裸でも恥ずかしくないなんて、誰が決めたんだろう」 　昼休み、僕は疲れ切って机にごっつんこした。その机の端に手を掛けて、僕の傍らに片膝をつき、顔を覗き込んでくる人がいて、白い開襟シャツの胸ポケットには『一年Ａ組　和仁灯』と書かれた名札があった。 「これ、試してみない？」 　見せられたのは二枚の絆創膏だった。 「怪我なんかしてないよ」 「わかってる。一緒に来て」 　手首を掴んで引っ張られ、第二校舎のパソコンルームへ連れて行かれた。 　部屋は施錠されているが、掃き出し窓の鍵は壊れていて、そこから潜り込めることを彼は知っていた。僕は空き教室に潜り込むなんて生まれて初めてだったから、掃き出し窓をくぐるときは緊張した。 　パソコンルームは日当たりが悪く、カーテンも閉まっていて薄暗かったが、灯はさらに黒板前の教卓の下に潜る。互いの身体がくっつく狭い空間で、改めて絆創膏を取り出した。 「乳首に貼るんだ。色も形も透けなくなる」 「そ、そうなんだ……？」 　とっさの理解が追いつかない僕に、灯は柔らかく頷いた。