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第2話

 僕と一弥は、高校一年の時に同じクラスになった。  二年になって別々のクラスになってしまったけれど、一年の時はいつも一緒にいた。  人見知りの僕に一弥は頻繁に話しかけてくれて、一見すると怖そうな雰囲気を持っているのに、本当はとてもやさしい人だった。  一緒にいるとすごく楽しくて、父さんの事も、僕を嫌って捨てた母さんの事も、その時は全てを忘れる事が出来た。  ――周りのざわめきを、気にする事もなかった。  それなのに最近、一弥との擦れ違いが多くなった気がする。  それは、クラスが別々になったからかもしれない。  もうすぐ三年になるから、お互い受験の事で頭がいっぱいなのかもしれない。  でも、それだけではない事にも気づいていた。  体を重ねていても、温もりを感じない。  だって手を伸ばしても、『一弥』には届かない。只孤独の中で、互いの欲望を吐き出すだけの行為となっていた。  僕の部屋に入っても、一弥は僕の名前すら呼ばない。  鞄を無造作に床へと放って、無言で僕を引き寄せ口付ける。舌の動きは不機嫌さをぶつけるように、乱暴に僕の中で動き回っていた。  腰に回された手は力強くて、身動きすら出来なくなる。苦しくなって一弥の胸を押すと、逆にベッドへと突き飛ばされた。  僕は、鞄と一緒だ。  無表情な一弥が覆い被さってくる。 「……一弥……」  僕が怯えた表情をしたからか、名前を呼んだからか、一弥の指先が僕の頬を辿る。そしてその顔は、引きつった笑みを浮かべた。  僕はそれが悲しくて、顔を逸らしてしまう。  途端に、後ろを向かされた。  さっきは僕の頬に触れた指が、後ろを解す事に使われる。さっきは感じた微かなやさしさは、今は感じる事が出来なくなっていた。  後ろからの衝撃に、「うっ」と思わず声を洩らしてしまう。  誰がどう聞いたって、感じて出してる声じゃないのに。  それでも一弥は、突いてくるのを止めない。力任せに、苛立ちを表すように、腰をぶつけ続けていた。 「……イッ……タ……」  いつからこんなセックスをするようになっちゃったんだ、僕達は。 「――はっ……あ、……あぁ……」  獣のように這いつくばって、僕は荒い息を吐き出し続ける。  ポトリと、白いシーツに落ちた小さなシミを、まさか涙かと見間違う。  それが汗な事に自分でホッとして、雪のようなシーツを握り締めた。  本当に縋りたいのは、シーツなんかじゃないのに……。 「……一……弥……」  返事のないまま、揺さぶられ続ける。  泣いたら負けだ。そう、心に念じながら。

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