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第3話

 朝、コーヒーを淹れていると、後ろからパサリと新聞を開く音が聞こえた。  ――父さん、起きたのか。  昨日僕が寝た夜中の一時には帰っていなかったから、それ以降に帰って来たのだろう。  只のサラリーマンなのに。  どんな役職についているのかも知らないが、そんな夜中まで働くどんな仕事があるって言うんだ。  僕が毎日用意している晩御飯は朝には無くなっているから、夜中に食べてはいるのだろう。  だけど、どんなに手の凝った料理を作ろうが、新しい料理に挑戦しようが、感想を言われる事はなかった。  僕も、感想を訊くような事はしない。  僕達は少しずつ、擦れ違いを繰り返してきたんだ。母が出て行った十三年前から、少しずつ……。そしてそれはもう、膨大な時間となってしまった。  ――いつか、壊れてしまうよ。  父さんの体も、僕達親子の関係も……。  まだコーヒーが残っているコーヒーメーカーへと伸ばしかけた手を、握り締めて引っ込める。  結局、自分だけのコーヒーを持って、リビングへと移動した。  すれ違い様に見ると、ダイニングテーブルに着く父親は、やはり予想通り疲れた顔をしていた。 「なんだか、疲れたな」  本当は父がそう言いたいのかもしれないけど、僕はポツリと呟いてソファへと腰掛けた。  テーブルに乗った携帯を持ち上げて、メールメニューを開いた。 『今日寄りたい場所があるんだ。放課後付き合ってくれる?』  イラストも何もないメールを、一弥に送る。 『いいよ』  向こうからも、素っ気ない返事が一言返ってきただけだった。 「ホント、しんどいなぁ」  ソファに凭れ掛かった僕は、腕で目を覆う。  周りからは微かにざわめきが、聞こえている気がしていた。

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