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第6話

 この遊園地でしゃがみ込んで泣くのは二度目だ。あれはいくつの時だったろう。両親が離婚する寸前だったから、四歳の時か……。 「真はあなたになついてるから」 「子供には、母親が必要だろう」  低い声で僕を押し付け合いながら歩く、両親の背中が遠ざかる。僕がはぐれても、気づきもしなかったのだろう。  ごめんなさい。いい子になるから。もうわがままなんて言わないから。だから、ケンカしないでェ……!  膝を抱えて泣きながら、僕は心の中で叫んだ。  周りのざわめきが、遠くに聞こえる。 「迷子かしら」 「親は何してるんだ」  遠巻きに囁く、大人達の声が耳に届く。 「見て見て、パパー」 「ママー、あれ乗りたいー」  楽しげに叫ぶ、子供達の声も。  寒さと寂しさに一際震えて……。余計に涙が溢れ出した。  ――ごめんなさい。  もう何に謝ってるのかも、解らない。しゃくりあげた僕は、ここがどこなのかも忘れて、わんわんと両親を呼びながら泣き叫んだ。 「おい。ジャマだ、クソガキ。踏んじまうぞ」  低く放たれた声。  降りしきる雪の中。振り返ったそこに、僕は光り輝く『天使様』を見たんだ。 「ねぇお客さん。もしかして、迷子ですか?」  囁く声に振り返ると、ここの従業員らしい男が一人、身を屈めて立っていた。歳は二十代後半くらい。帽子を目深にかぶり、眼鏡をかけている。  夕闇の中。あの時と同じに雪と大きな観覧車をバックに立っているけれど、あの時の天使様とは、別人だった。  そうだよね。 「迷子に、見えますか?」  ――僕もう、十七なんだけど。と心の中で呟きつつ、涙を拭う。 「いやぁ、どうだろう。微妙かな」  クスクス笑った男は、フワリと手を泳がせながら後退った。 「でもねぇ」  手を口元に添えて、内緒話でもするように囁く。 「そんなトコでしゃがんでると、誰かに踏まれますよ」 「えっ?」  観覧車の方へと歩いて行く男に、ガバッと立ち上がる。  この人は、天使様じゃない……!  グッと掌を握り締め、自分に言い聞かせる。  でも足は、観覧車へと踏み出していた。

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