1 / 4

①8月、午前11時

小六の夏休みの途中、ハルトの縄張りの公園にその子は突然現れた。 公園の隅にうずくまっていたから、はじめはいることに気づかなかった。 後ろから見ると首が取れてしまったのかと思うほど両足の間に顔を落として、ずうっと地面を見ている。 ハルトはただなんとなく気になって、丸まった背中に「何してるの」と声かけた。 ぶかぶかの野球帽をのせた頭が持ち上がり、まるい瞳と目が合った。 「蟻ってこんなに小さいくせに一匹一匹に命があるなんて不思議だよね」 その子はそう言うなり、足元の蟻の行列にまた視線を戻した。 ハルトはどう反応していいかなんて分からなかった。そんなの当たり前じゃない?と思いつつもその子の隣にしゃがむと一緒に蟻を見た。 蟻たちはその子の指に妨害をされながらも、せっせと巣穴に餌を運んでいた。 ハルトは横目で隣の真剣な眼差しを見ながら(ああこの子は変わった子なんだなあ)とぼんやり思った。 夏真っ盛りの暑い日だった。 ハルトはその日、首の後ろを真っ赤に日焼けして帰った。

ともだちにシェアしよう!