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序
「嗚呼.....。」
と貴方の唇から白い吐息が零れ落ちる。
蒼白な空からひらひらと肩に舞い来る風花のように、僕の心に降り積もる。
貴方の肌はこの雪よりも白く、その髪は射干玉の闇より黒い。
「また会えるだろうか......。」
ほとり......と椿の花が落ちて、貴方は唇を震わせる。延ばされた手に僕はそっと手を添える。細いしなやかな指先に桜色の爪が微かに揺れて、僕の手を弱々しく握る。
「会えます。また、きっと......。」
僕は心にも無い言葉を紡ぐ。貴方の黒曜石の瞳に宿る『あの方』の面影は、余りにも切なすぎて、掻き消すことなど、とても出来ない。
文机の上に拡げられた『あの方』からの手紙。消息を尋ねる度に降り積もる吐息を、僕には融かす術が無い。
遠い島へと送られた『あの方』は、岩を砕く荒浪を恨みながら、貴方の細い息が絶えないよう、優しい嘘を綴り続ける。
浜千鳥のつぶらな瞳を見るたびに貴方の真っ直ぐな直向きな眼差しを想い、涙に暮れているという。
淡雪に濡れた紅梅の花弁が北風に揺れて、貴方の唇がひそと囁くようだという。
衣手が涙で濡れるので、波の飛沫に浸すという。
「逢いたい......。」
貴方の両の眼から、はらはらと白露のような涙が落ちて、褥を濡らす。
でも......
でも『あの方』は......
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