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第10話 告白②
五月の話を聞いて進はただ驚いていた。
五月が自分のことを小学生の頃から知っていた事。
そして中学生の時に何回か試合をした事がある事。
それらに関しては進はまったく記憶になかった。
「まぁ、こっちが勝手に意識してただけだからね」
五月はそう言って笑った。
しかし、五月の話の中で一つだけ進にも覚えていることがある。
中学生の時、練習試合で負けた対戦相手に『自分のプレイをよく見ていた』と言われたことがある。
それは進にとってとても嬉しい出来事だった。
自分のプレイを認めてくれている人物がいる。
そんなことを言ってくれる奴がいるなんて思いもよらなかった。
進はその時とても嬉しくなり、いつか一緒にプレイしてみたいと言ったのだ。
しかしまさか、その人物が五月だったなんて。
そしてその言葉を頼りに、まさか転校までしてくるなんて・・
「進ちゃん、引いてるでしょー」
五月は進の顔を覗き込むようにして言った。
二人は今、学校近くのファストフード店で向かい合って座っている。
今日の昼休みでは全部の事を話せないと思い、改めて放課後待ち合わせをしたのだ。
五月はハンバーガーを食べながら、進と初めて出会った時のこと、中学、そして転校を決めるキッカケまでの話をしてくれた。
「俺はね、進ちゃん。進ちゃんに会って進ちゃんと一緒にバスケできたらそれでもう満足できると思ってたんだ。でもちゃんと知り合って、一緒にいたらとてもそれだけじゃ無理だって思ったよ」
「・・・」
進はポテトをかじりながら五月の話を聞く。
「正直セフレになっちゃうとは思ってなかったけどさ。進ちゃん押しても全然落ちてくんないから、ならもうセフレでもいいかってなっちゃったよ」
「・・ごめん」
進は自分が悪いのかよくわからなかったが謝った。
「いつか進ちゃんに振り向いてもらえればと思ってたのに、清瀬君とまた付き合うとか言うしさー」
「・・本当ごめん」
「まぁ、俺がそれでも友達でいようってしつこく言ったわけだから、俺の粘り勝ちってことだよね」
「え?」
「だって、進ちゃん明らかに清瀬君と俺の間でフラフラしてたじゃん。俺が粘ったから決心がついたみたいだったけど」
「・・・」
進は少しムッとした顔をして黙った。
確かに清瀬と再び付き合うことになった時、五月に友達のままでいようって言われなかったら、もう少し距離を置いたかもしれない。
でも、結局は自分だって五月がそう言うならと、五月のせいにして甘えていただけだ。
五月と離れることは、どっちみち出来なかっただろう。
いつの間にか五月は自分で思ってるよりもずっと、心の中心にいた。
塞ぎ込んで、ただ何となく過ごしていた毎日に、一筋の光をくれた。
五月が転校してきて救われたのは自分の方だ。
進はふと、五月の方を見た。
「どうした?」
五月はゴクゴクとジュースを飲みながら聞いた。
「五月、今からバスケ、やるか?」
「え?」
進は今頭の中で思い立ったことを五月に伝えた。
「ちょっとだけなら出来るんだろ?1ON1、やろうよ」
「えー、どしたの進ちゃん?」
「だって・・五月は俺とバスケがしたくて転校してきたんだろ。だからそれを叶えようよ」
進はそう言うと近くに出来そうなところはないか、スマホで調べ始めた。
しかし五月はその進の手を掴んで、検索する手を止めた。
「いいよ、進ちゃん。それはまた今度で」
「で、でも・・」
「これからたっぷり時間はあるんだし。俺、今はバスケ以外にも進ちゃんとやりたいこといっぱいあるよ!」
「五月・・」
「進ちゃんはさ、前の恋愛で周りが見えなくなったって言ってたけど、俺とだってそれくらい夢中になってほしい。その代わり俺がちゃんと周りを見ながら進ちゃんの手を引っ張っていくから安心してよ」
五月はそう言うと改めて進の掌に指を絡めてギュッと握った。
「これから、進ちゃんが嫌になるくらいずっと一緒にいよう」
「・・うん」
進は掌から伝わる五月の暖かさを感じながらうなずいた。
五月の言葉を信じよう。
恋愛は恐いものじゃない。
楽しくて幸せなものだと。
五月の優しく包み込むような視線を感じると、そう信じられる気がした。
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