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第10話 告白①

テレビからクリスマスのCMが流れてくる。 ブレザーの中に厚手のカーディガンを羽織り防寒対策はバッチリだ。 肩を痛めて以来、寒さに弱くなった気がするな・・ そんなことを思いながら五月は屋上へ続く階段を上がった。 さすがにそろそろ本気で屋上で食べるのはキツくなってきた。 吹きっさらしの風がどんどんと体温を奪っていく。 それでもここでしか進とゆっくり話すことはできない。 だから今日も、寒くても笑顔でここにいたいと思う。 五月が屋上の扉を開けると、ふわふわと線の細い髪を風に揺らせながら進が外を眺めていた。 進が先に来ているのは珍しい・・ 五月は少し驚いたが、笑顔を作ると明るく声をかけた。 「進ちゃん!!今日早くない?」 進は五月に気づくと少し微笑んで答えた。 「あぁ、4限が自習になったから」 「自習?なんの授業?」 「物理。先生、奥さんが産気づいたとかで急遽帰ったんだよ」 「へー!おめでたいな!」 そう言いながら五月は進の隣へ並んだ。 進は立ったままフェンス越しにまた外の風景を見つめた。 どうしたのだろう・・ 今日の進は少し様子が違う気がする。 「進ちゃん、食べないの?俺寒いからコーンスープ買ってきちゃったよ!」 五月はそう言いながら缶に入ったコーンスープを見せた。 しかしすでに平気で持てるくらい冷めてきている。 「・・五月、中入ろうか?」 進は五月の方を向いて言った。 「え?」 「五月、寒いの苦手なのかなって、ずっと思ってたんだよ・・ごめんな」 「・・どうしたの?進ちゃん」 やっぱり何かあったみたいだ。 五月は進の顔色を伺いながら聞いた。 「中に入って、どこでご飯食べるの?」 「教室でもいいし、どこか空いてるところとかあればそこでもいいし」 「・・・誰かに見られてもいいの?」 「・・うん、平気」 「・・・」 五月は少しの間考えたが、進の腕を掴むと屋上の扉まで連れて行った。 そして扉を開けて中に入った。 しかし下には降りない。 扉の前で進と五月は向かい合った。 「何があったの進ちゃん?」 「・・・」 進は俯いたまま自分の腕をギュッと掴んだ。 そして何かの決心がついたのか、五月を見上げてまっすぐ見つめた。 「俺、清瀬と別れた」 「え?!」 五月は突然の報告に驚きの声を上げた。 「な、なんで?!だって、うまくいってたんじゃないの?」 五月は無意識に進の腕を掴んだ。 すると進はキッと鋭い視線を五月に向けて言った。 「・・俺、五月が好きだから」 「・・・え」 「今更だけど、俺、五月のことが好きだって気付いたんだ」 そう言った進の顔はみるみる赤くなった。 「・・・」 五月は予想もしていなかった、嬉しい言葉にどう反応して良いか分からずただ目の前で顔を赤らめている進を見つめた。 進が自分を好きだと言ってくれた。 本当に? 俺のことが? 進は五月からの返事をただじっと待っている。 五月は両腕をバッと広げると、包み込むように進を抱きしめた。 「わ?!え?五月??」 五月から何か言われると思っていた進は、驚いて五月の腕の中でもがいた。 「進ちゃん、本当に?俺のこと好きなの?」 五月は進をグッと抱き締めながら聞いた。 「・・うん」 進は五月の腕の温もりを感じながら答えた。 「そっか・・嬉しい。俺も進ちゃんのこと大好きだよ」 五月は進をソッと離すと、進に微笑みかけた。 「・・本当に?」 進は目をぱちくりさせて聞いてくる。 「五月、本当に俺のこと好きなのか?だって、今までずっと俺達は性欲処理のための友達だって思ってたのに・・」 「そんなの、進ちゃんとエッチするための体のいい言い訳に決まってるじゃん・・進ちゃんは俺のこと好きじゃないと思ってたから・・」 「・・ごめん」 進は俯いて謝った。 「五月のこと好きだって、気付くの遅かった・・いや、遅いっていうよりは、自覚しないようにしてた。恋愛、またするのが恐くて」 「・・進ちゃん」 「俺、清瀬と付き合ってる時、周りが見えなくなるくらい恋愛に夢中になってた。部活もサボるくらい・・でも、だんだんこのままじゃ俺も清瀬もダメになるって思ったら恐くなって、清瀬から逃げて部活も辞めて何もなくなった。恋愛って、幸せな時は楽しいけど、いつまでもそれが続くわけじゃない。ならもう、したくないなって思ったんだ・・」 「・・・」 五月は黙って聞いていた。 進が恋愛に消極的だった理由。 清瀬と別れた理由。 知りたいけど、詳しくは聞けなかったことだ。 「でも、五月と会って、五月はすごく居心地が良くて。一緒にいたいって思った、ずっと・・けどそれが恋だってわかっていても頭の中で否定してた。恋になったら、ずっと一緒にはいれないから友達のままでいたいって」 進は両の手を握りしめ、五月を見上げると言った。 「でもやっぱりただの友達じゃ足りない!」 進の表情は今にも泣き出しそうな、ぎりぎりで何かを堪えているようだった。 「俺はめちゃくちゃ卑怯で・・五月とあやふやな友達のまま清瀬ともう一度付き合った。今度清瀬と間違えずに付き合えたら、恋愛に対してもってた苦手意識がなくなるんじゃないかって。そしたら五月とも、もっとちゃんと向き合えるんじゃないかって、心の中で思っていたんだと思う。それを清瀬に見破られて、清瀬をまた傷つけた。本当に俺は卑怯で最低だ・・」 進は自分の唇をグッと噛んで言った。 「だから・こんな俺だから、いつか五月が嫌になったらすぐにフってくれていい。それでも、五月がもういいってなるまで俺と・・付き合って・・ほしい」 最後の方はもうほとんど消えてしまいそうな声だった。 進は再び俯いて五月の返事を待った。 五月は少し震えている進の肩に手を置いた。 進はハッとして五月を見上げた。 すると五月は満面の笑みで答えた。 「何言ってんの進ちゃん。俺がどれだけ前から進ちゃんを好きだったと思ってんの?俺かなりしつこいよ。なんたって出会った時から数えたら7年越しくらい?逆に進ちゃんがもういいって根をあげるんじゃないか心配になりそう!」 「え??」 進は驚いて目をみはった。 「まぁでも、どんなに進ちゃんに冷たくされても、もう離してあげれないけどね」 五月はそう言うと、ニコッと笑って唇が軽く触れるくらいの優しいキスをした。

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