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第9話 決断②

同じような値段設定の並ぶホテルの中から、比較的綺麗で人目につかず入りやすい場所を選んだ。 男二人で入るにはハードルが高い場所なので、以前付き合っていた時に使ったのは数回程度だった。 進は無言で清瀬の横を歩く。 後ろからついて来るわけではないのが進らしいと、清瀬は思った。 部屋に入り鍵をかけると、清瀬はすぐに進を後ろから抱きしめた。 下手な間を作ってしまうと、逃げられたり誤魔化されたりするような気がしたからだ。 「・・ちょ、清瀬」 進は少したじろいて清瀬の方へ振り向こうとした。 「進、好きだよ」 そう言うと進の腰をそっと抱き、唇を重ねる。 「つぅ・・」 進の口から苦しそうな吐息が漏れた。 清瀬は口づけをしたまま、腰に回した手を進の服の中へ滑り込ませる。 するりと入り込んだ清瀬の手は進の背中の弱い部分を優しく撫でた。 進はビクっと身体を震わせ清瀬の服をキツく掴む。 清瀬は進のその反応に煽られ、一度唇を離すと進の腕を掴んでベッドまで連れて行こうとした。 しかし進はグッと立ち止まり言った。 「あ、あの・・ちょっと待って・・清瀬」 「え・・?」 「・・俺・・清瀬に言っておきたい事があって・・」 進は清瀬をまっすぐ見つめた。 清瀬は昂っていた気持ちに、冷や水をかけられたような気分になった。 今、この瞬間この場で、話さなくてはいけない事なんてあるのだろうか? あるとしたら、それは明らかに良い話ではないだろう。 清瀬は一つため息をつくと、ベッドに腰かけた。 「何?言っておきたいことって?」 清瀬は立ったままの進を見上げた。 進は清瀬をしっかりと見つめたまま言った。 「俺、今日セックスするの、久しぶりじゃないんだ」 「・・え」 予想もしていなかった進の言葉に清瀬は言葉が詰まった。 「清瀬と別れた後、セフレができた。そいつとこの間まで時々寝てた」 「・・・」 「このこと言わないまま、清瀬とセックスできないと思って・・黙っててごめん。そういう事してたの、清瀬が嫌だったら、その・・やっぱり付き合うのを無かったことにしてもらっていいから・・」 「・・・」 「・・清瀬?」 清瀬が黙ったままだったので、進は不安になりそっと近づこうとした。 その瞬間、清瀬は進の腕をグッと引っ張りぎりぎりの距離まで顔と顔を近づけて言った。 「誰と、寝てたの?」 今にもぶつかりそうな瞳と瞳の視線が真っ直ぐとあった。 清瀬の瞳には怒りの色が浮かんでいる。 「・・それ、は」 進は躊躇いの様子を見せたが清瀬は気にせず続けた。 「乾君?」 「・・・」 「否定しないって事はそうなんだね・・」 そう言われて進は小さくうなずいた。 「それは、本当にセフレだったの?付き合ってたんじゃなくて?」 「違う、付き合ってない。本当に、ただの友達・・」 進はそう言うと俯いたまま膝立ちの形で清瀬に話しかけた。 「清瀬、本当に五月とはただの友達で・・時々お互いの性欲処理のためにセックスをしてた。それだけだ・・今は普通の友人でそれ以下でもそれ以上でもない・・」 それ以下でもそれ以上でもない? そんなこと、清瀬には信じられなかった。 進は自分のことがわかっていないんだな。 これなら付け入る隙はいくらでもある。 でも・・ 清瀬はうなだれたままの進の腕を掴み、そのままベッドへ引き倒した。 「わっ」 進は驚いてそのままベッドへ仰向けに倒れる。 清瀬は進の上に馬乗りになって言った。 「わかった。いいよ、進にセフレがいたってこと受け入れる。だから、今日はこのまま進を抱いていいんだよね?」 「・・うん、清瀬がいいなら」 進は横を向きながら答えた。 清瀬に、五月とのことを話そう。 そう決めたのはデートの前日だった。 どちらとも繋がっていたいなんて、自分の傲慢な考えはダメだと思った。 清瀬に五月とのことを話して、それなら付き合う事は無理だと言われたらそれを受け入れよう。 五月と抱き合ったことを、なかったことにはできないのだから。 進は自分の上に覆いかぶさる清瀬を見つめた。 抱く、と言ったのに清瀬はどこにも触れてこない。 「清瀬・・?」 どうしたのだろう?やっぱり五月と寝ていたことを受け入れられないのだろうか。 しばし様子を伺っていると、清瀬がポツリと言った。 「進は・・ずるいね」 「え・・」 「ずるいよ。俺にそれを言って、そのままの自分を受け入れてもらおうって思ったの?乾君の気持ちも、俺の気持ちも考えずに?」 「・・・」 進は清瀬の言葉にどう返して良いか分からず、ただ清瀬の瞳を見つめた。 「俺がそれを受け入れなかったら別れるつもりってことでしょ。それで、乾君はどうなるの?また乾君とセフレに戻るの?」 「・・それは、ない」 「なんで?ないって言い切れる?」 「五月とは、もう本当に今はただの友達になったんだ。五月にも親友になりたいって言われた。だからそういう関係はもう終わりにしたんだよ」 「ふーん・・進は俺とも付き合って、元々セフレだった乾君とは親友でいようとしたんだ」 「・・それは・・だから、その」 進は清瀬に突かれたくないところを言われて口籠る。 「それで、俺が乾君とのセフレ関係だったことを受け入れたら、自分はなんの秘密もなしに両方と仲良くできるって?そう思ったの?」 「・・!」 違う。 そんなつもりはなかった。 ただ、清瀬に分かってもらおうと思った。 五月との関係を・・ 「俺が進と付き合うためには、それを受け入れなきゃいけないの?」 「・・清瀬」 「俺が、乾君とは二度と口を聞かないで、って言ったら進はどうするの?」 「・・・」 「・・俺とは、付き合わないでしょ?」 「付き合うよ!」 進は少しムキになって言った。 「嘘。付き合わないよ。・・もし付き合ってもきっと乾君のこと考え続けて、うまくいかなくなる」 清瀬は少し悲しそうな顔で言った。 「進、進は自分の気持ちに気付いてないんだね」 「え・・」 「俺は、少しでも進を繋ぎ止めることが出来ればと思っていたけど・・もうダメだったみたいだ」 「清瀬、何言ってるんだよ?」 進はすがるように清瀬の腕をつかんだ。 しかし、清瀬はそれを振り払うと、進の上から離れてベッドへ座り直した。 進も起き上がると清瀬の後方に座る。 そして清瀬に後ろから話しかけた。 「清瀬、俺は、もう一度清瀬とやり直せたらと思ったんだ。間違えたことをわかってるなら次は大丈夫だろうって思って・・」 「・・・」 清瀬は黙ったままでいる。 背中越しに話しかけたので清瀬の表情を見ることができない。 清瀬は今どんな顔をしているのだろう。 しかし、とにかく清瀬の誤解を解きたくて進は続けた。 「五月とは、本当にただの友達で。その今は本当に良い関係を築けてると思うから、出来たらその、仲良くしていたいと思ってる。でも、清瀬が嫌なら俺だって、その清瀬の嫌がることはしたくないし・・」 「進・・」 すると清瀬は進の方を振り返り言った。 「進は俺のことが好きで付き合ったわけじゃないんだね。一度失敗したことを、今度は失敗させないようにチャレンジしたかっただけなんだね」 「え・・」 「間違えた恋愛のトラウマを払拭したいだけ。俺がまだ進を好きなことをいいことに・・俺を利用してるだけ」 「そんなことない!!」 清瀬の言葉に進は悔しくなり大声で否定した。 「別に、俺はそれでもよかったんだ。進ともう一度付き合えるなら。でも・・もう他に好きな人がいるのにそれをやるなら俺は無理だよ。本当は別のやつと恋愛したいのに恐くて逃げ道にされただなんて、俺、惨めでしょ?」 「・・そんな、こと・・、俺は五月のこと好きなわけじゃ・・」 「進って、わかりやすいんだよ。自分でわかってる?」 「え・・」 「警戒心強くて、いつも虚勢を張ってて。そんな進が性欲処理だけのために他人とセックスするの?一番他人に触れられたくないところを曝け出すの?」 「・・・」 「どういう流れで乾君とそうなったのかは知らないけど、もうそういう行為をした時点で進は乾君に惹かれてたんだよ」 「・・・俺は」 清瀬の言葉はまるで目に見えない空気の銃のようだった。 気づかないふりをして、誤魔化して、逃げていた五月への気持ちをすべて的確に打ち抜いてきた。 「はぁ・・俺、遅かったね。もっと早く進にもう一度告白すればよかったのかな・・」 「清瀬・・」 「でも、進が乾君とそういう関係になってなかったら、進はもう一度俺と付き合おうとは思わなかったかもね。今もずっと恋愛から逃げて遠ざけていたかも・・」 「清瀬、俺・・本当に、ごめん・・」 進は清瀬の顔を見れず下を向いて謝った。 「・・進、俺は進がすごく好きだった。俺にだけ見せてくれる顔が可愛くてずっと独り占めしたいと思ってた。でも・・もうそれが出来ないってわかったから・・仕方ないね」 清瀬はそう言って寂しそうに笑った。 進はその笑顔を見て清瀬の両腕を掴んで言った。 「・・俺も、俺も清瀬のこと、好きだったのは本当だから。清瀬がいたから一年生の時すごく楽しかった。ずっと清瀬といることばかり考えてて、本当自分がダメになるくらい好きだったんだ・・」 「・・うん、わかってる。ありがとう」 清瀬はそう言うと、進の頭をポンポンと撫でた。 進は目に涙が浮かんだが、ここで泣いてはもっと自分が卑怯になる気がしてぐっと堪えた。 自分をこんなにも好きでいてくれた人を二回も傷つけた。 自分は傷つくことを怖れて、逃げてばかりいたのに。 だから・・ 今度は自分が傷つくとしても、逃げずに挑まなくてはいけない。 この暖かな手をいつも差し出してくれていた彼のためにも・・

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