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前編

「……出来上がりましたね」 休憩時間中に皆に見付かり、流しに捨てられた『まっクロ』を研究室で改めて作り直した。 それも以前作った発情症状の出る薬をブレンドして、バージョンアップさせた『まっクロ』に。 「…さて、これをどうやって明紫波に飲ませましょうか」 俺は『まっクロ』の入った瓶を手に持ち中身を見つめながら思案する。 不気味な暗黒色をしていた『まっクロ』は薬を混ぜたお陰か、黒蜜のような艶のある漆黒の飲み物へと変化していた。 「…案外、このまま渡しても飲むかもしれませんね」 試しにパソコンで最もらしい文面を並べた成分表示ラベルを作り、瓶に貼ってみる。 ついでに明紫波が愛飲しているイカスミドリンクに模したラベルも作り、貼ってみた。 するとどうだろう、普通に市販されていそうな健康ドリンクが出来上がった。 「…ふふ。これなら明紫波も飲んでくれるでしょう」 俺は瓶を机の上に置き、客観的に眺めながら細く笑んだ。 そんな俺の背後から不機嫌そうな声が。 「…俺が、何を飲むって?」 振り返ると明紫波がいて、眉間にシワを寄せて俺を見ている。 「明紫波…」 「一応、ノックをしたんだが返事がなかったから勝手に入った。…また変なモン作ったんじゃねぇだろうな?」 そう怪しんだ明紫波が俺の側に来ると、俺の前に置かれた瓶を覗き込んだ。 「ん?これは?」 「変なモノなんて作っていませんよ。これは先程、売店に行った時に見つけたモノです。新商品らしく貴方が好きそうだったので購入してきました」 俺は内心の焦りを表に出さぬよう、しれっとした態度で説明してみせた。 「へえ~、こんなのが出たんだな」 明紫波は、その瓶『まっクロ』を手に取ると表のラベルや裏の表示をしげしげと眺めた。 「良かったら差し上げますよ」 「いいのか?」 「貴方の為に購入してきた(作った)モノですからね。どうぞ飲んで下さい」 「ワリィな。じゃ、遠慮なく」 そう嬉しそうに言うと、明紫波は瓶の蓋を開けゴクゴクと飲み干した。 「…っく、はあぁ。…なんだ?いつものと違って、味は不味いなっ」 「そう、…なんですか?」 「ああ。いつも飲んでんのは、もっとイカスミの味わいがあって、飲んだ後も…、う、…くっ…」 「……明紫波?」 話の途中で急に苦しみ始めた明紫波。俺は明紫波の顔を覗き込むと、口元を押さえ前屈みになる明紫波の体を支えた。 「明紫波!大丈夫ですか?」 「……く、……ふ、…うぅ…」 (…まさか、失敗したのですか?) 顔を歪めて苦しむ明紫波を俺は抱きしめ『まっクロ』を飲ませた事を後悔していると、腕の中の明紫波から呻き声が止まった。 「………明紫、波?」 恐る恐る声をかける俺。 そんな俺をゆっくりと振り返った明紫波は、俺の記憶の中で一番若い、出会った頃の明紫波になっていた。 「……テメー、誰だ?……ここは…?」 「…え?…俺の事が、分からないのですか?」 「テメーなんざ、知らねぇよ。…いや、待てよ」 至近距離で俺の顔をマジマジと見つめる明紫波。 負けん気の強そうな紫の瞳に、まだ少しあどけなさの残る顔。 (…あの頃は『強面でただ恐いOBの先輩』としか思いませんでしたが、……良いですね) 思いがけない昔の明紫波との邂逅に、懐かしさと、欲情が込み上がる。 だが、そんな俺とは裏腹に息づかいが荒くなっていく明紫波。 「…テメーと似たヤツを、大学で見たな。…はぁ。…クールで…人を寄せ付けない、…はぁ、…そんなテメーを、…はっ、たまらなく、啼かせてやりてぇぜっ」 「…っ!!」 明紫波のギラつく目に欲が滲むと同時に飛び出す獣耳。 ガタンッと大きな音を立てて、俺は机の上に組み伏せられた。 「…くっ、…止めなさい、明紫波っ」 「はっ、はっ、はぁっ」 俺の制止の声に構わず、荒い息づかいのまま乱暴な手つきで俺の服を乱していく明紫波。 露になった肌にかぶり付き犬歯を突き立てる。 「…っ、!」 痛みで強張る身体に、布越しでも分かる程硬く滾った熱がゴリッと擦りつけられた。 「……っ、まさか、…ソレを、俺に?…」 「…は、そうだ。…今からテメーに、コイツをブチ込んでやんよっ」 凶悪な笑みを浮かべる明紫波に、血の気の引いた俺は必死で手足をバタつかせ抵抗する。 「…く、やめっ、…やめなさい、明紫波っ」 「はっ、テメー、バカだな。そんな抵抗、煽るだけだぜっ」 獲物を嬲り仕留めにかかろうとする、まさに獣のような明紫波。 そんな明紫波の下で、ムダな抵抗を続ける俺に諦めの気持ちが過る。 そんな時、部屋の出入口の方でコンコンと扉を叩く音がした…。

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