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雪がきれいだ

「アヤ?」  画面表示がテレビ電話に切り替わった。  夜空を舞い降りる、雪。  ここで今、リョウが見ているのと同じ風景が、画面の中にも映し出されている。アヤもリョウと同じように、今この時、夜の闇の中空を見上げているのだ。 「こっちも降ってるよ。ちょうど見てたとこ。こうしてたら、一緒に見てるみたいやなあ……」  リョウが画面を夜空にかざした。まるで頭上の光景を撮影しているかのように、画面の中の映像が空にぴったり溶け込んだ。 「今何してたの」  画面は雪が舞う夜空のまま、アヤの声だけが聴こえる。 「え?今?後輩とラーメン食べてた帰り」 「……そう。俺と会えなくなってもいくらでも代わりがいるもんな、リョウには」  妙に険のある言い方をしてしまった。あまりショックそうじゃなかったのは、スペアがいくらでもいるからか?などと考えてしまい、つい苛立ちが湧いた。 「……あかんの?」  消え入りそうな声で、リョウが問う。 「一番一緒に見たい人と見られへんようになった寂しさの気晴らしぐらいしたらあかんの?」  リョウが珍しく大きな声を上げたので、永倉の耳にも届いてしまったし、画面の向こうのアヤも驚いた。当のリョウはすぐさま我に返り謝った。 「あっ!ご、ごめん、アヤも忙しいのに」 「いや、俺の方こそごめん」 「なあアヤ、顔見せて」 「やだよ」 「ええやん、ちょっとだけ」 「一人じゃないんだろ」 「えーちゃーん、ごめんやけど先帰ってて!」  リョウはいとも簡単に永倉を先に帰した。察しのいい永倉は何も言わず一礼してその場を去った。 「もう一人なったで、人通りもほとんどないとこ」 「……今日だけだからな」  画面が切り替わり、アヤの顔が映る。髪を後ろに撫でつけた、副支配人の姿だ。 「へへ……副支配人さんや」 「リョウも顔見せて」 「え~?見たいの~?」  わざとらしく揶揄うように照れてみたら、 「見たいよ」  素の直球が帰ってきて、本当に照れる羽目になってしまった。 「……」  リョウも画面を切り替えた。画面越しに見つめ合う。寒さで互いに鼻が真っ赤だ。 「電話してて大丈夫?忙しないん」 「休憩中。雪降ってるって聞いて、リョウに見せたいなって」 「俺言うてなかったけど、ほんまはずっと、アヤと一緒に雪が見たかってん」  そんな些細なことが望みだったなんて。本当なら今夜、簡単に叶えられた望みだ。アヤの心がまた痛んだ。 「だから、こうやって叶えてくれて嬉しい。ありがと」 「え?」 「さっき見せてくれた空、こっちの空とおんなじで、改めて繋がってるんやなあって思えたし、ほんまに一緒に見てる気になれてん」 「リョウ……」  今からでも呼び寄せたくなる気持ちを、アヤはぐっと堪えた。まともに相手も出来ないのに、日帰り同然の日程で呼びつけるのはあんまりだ。 次に会ったら、雪だって星だってなんだって一緒に見よう。そう決心するに留めた。

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