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わかりやすい人

 リョウは午前と午後でテンションが天と地だ。ケーキはどうしたらいい?ワインだけがアヤの部屋に行けて羨ましいなあ、なんて頭をぐるぐるまわり、仕事もすっかり上の空。  休憩所で紙コップのコーヒーを持つだけ持ってぼんやりしていたら、またも永倉に遭遇した。 「大丈夫ですか」 「へ、何が……」 「デート、ダメになったんですか?」 「……いっつも察しええよな自分……」  図星を刺されてガックリと肩を落とすリョウ。 「わかりやすいんですもん」  クスクスと笑う永倉をしり目に、苦々しい表情でコーヒーを啜る。 「じゃ、仕事終わってから久しぶりにラーメン行きません?」 「うー……」  正直、そんな気分ではないのだ。リョウが答えに困っていると 「そんな気分じゃないのはわかりますけど、一人でいたって塞ぎ込んじゃうんじゃないかと」 「……えーちゃんてエスパー?」 「椚田さんがわかりやすすぎるだけですって」 「あんなぬくもったのに一瞬で凍りそうやなー!」  いきつけのラーメン屋を出て歩くリョウと永倉。あつあつのラーメンで体の中から温まったばかりだというのに、店を出るやいなや寒さで身が凍る。 「寒いはずだ、降ってますよ」  永倉に言われよく夜空に目を凝らせば、雪が舞っている。大阪市内は夜も明るくて、雪にも気づきにくいのだ。 「わぁ、ほんまや」  リョウは足を止めて、どんどん冷たくなる手に息をふきかけながら、しばし夜空を見上げた。  あんなにアヤと一緒に見たかったのに、皮肉なものだ。本当なら一緒に見られたのかな。あっちでも降ってるのかな。  無念を思い出し、心まで急激に冷えてきた。でもアヤのせいではない、今頃激務で大変なはず。恨みつらみをぶつけるのはお門違いというものだ。  アヤだって残念に思って……くれていたらいいけど。  少し離れたところで永倉が待っている。そろそろ行こうかと一歩踏み出しかけた時、ポケットでスマートフォンが震えた。  相手は――

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