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おかしい

 おかしい。  朝登校したら雪だるまが一つ増えている。  昨日学校帰りに校舎裏の日陰の花壇に小さなヤツを僕が一つ作ったのだ。場所が場所なので人目につくことはまずないし、その上椿の影に隠れるように場所を選んだ。少しでも長く溶けないで残って欲しいと思ったから。  それなのにその雪だるまの隣に一つ、雪だるまが増えている。仲間を呼んだのだろうか。しかも三段の雪だるまだ。当たり前だが僕が作った雪だるまより雪玉一つ分大きい。しかもなんとなくイケメンだ。負けたなこれは、僕の雪だるま。ザンネン。  僕はしばらくその雪だるま達を前にして考えた後、その隣に雪うさぎを作ることにした。雪だるまでは敵わないが雪うさぎならば自信がある。  ミトンの手袋で程よい形に雪玉を整え、椿の植木の隣に生えている南天の実をふた粒ほど拝借して目にした。耳は椿の葉。  美形の雪だるまの隣に、ちょこん、と彼を置いた。  可愛い可愛い。  僕は誰に見られているわけでもないのにここ最近で一番と言っても過言ではないくらい得意げな気持ちだった。  とても満足したので今朝方降り積もった花壇の雪を払って、雪うさぎの隣に座った。  突然の静寂。  雪の降り積もった朝は好きだ。好きじゃない、大好きだ。  音がないから。大好きだ。全ての音を雪が吸い込んでしまうから、まるでこの世界には初めから音が無かったと勘違いしてしまいそうになる。無音だけが耳に心地よく、不気味に僕の背中を震わせた。音と言ったら僕が出す衣擦れの騒音くらいだ。  僕はこの時初めて世界に一人になれた気がする。一人でいい。僕が一人だったら僕の世界は僕で完結する。僕は僕以外の人間と繫がりを持たなくて済む。僕は一人でいい。  僕は。一人でいい。  はあ、と息を吐けば、白い霧になって雪の上に落ちていく。空は曇天。  明日も雪が降るだろう。  少し笑って椿の花に目をやった。こんなに小さな花弁の上にも雪が降り積もっている。手袋を脱いで慎重に指先で払ったら、椿はぽとりと落ちてしまった。  僕はそれを拾い上げる。片手で掬って唇を寄せた。色褪せた椿の匂いがする。少し考えた後に花びらを千切って雪うさぎの上に乗せた。 「聞いてるの?」  僕は飛び跳ねた。心臓がばくばく脈を打つ。  僕の心臓の音がうるさい。  女生徒の声だった。  

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