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もうあっち行って
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昼休みが大嫌いだった。授業と授業の間の十分間の休憩は我慢できる。本に目を落とせば結構直ぐに通り過ぎていく。でも昼休みはそれの五倍もあるのだ。僕の心はユウウツをユウウツでコオティングしたくらいにユウウツになる。
今日のお弁当の話、授業の話、部活の話、好きな人の話……笑い声、びっくりする声、おどけた声、震えた声、かすれ声……話し声が耳について仕方がなく、本にも集中することができない。
僕に話しかけてくる人はいないし、僕から誰かに話しかけるわけでもない。僕は学級の同級生から仲間はずれにされている訳ではないしいじめられたり厄介者だと思われたりしている訳ではない。空間に居場所はある。逆にそれが辛いというのは贅沢なんだろうか。
人の輪に入れないのは、僕に意気地が無いからか。
そんなことをぐるぐる考える昼休みは本当に長い。長いはずなんだけど。
何故か今僕の席の目の前にレオくんが座ってこちらを見ている。
レオくんは今朝見た色の瞳と今朝見た眉目秀麗さで僕の顔をじっと覗き込んでいた。美人の真顔は精神的にくるのでできればやめて頂きたい。加えて女子の視線が痛すぎるほどに痛いので勘弁してほしい。
僕はなにも言えずに膝に置いた手をグーにして汗を握りながら机の木目に必死で目を向けていた。
女子がレオくんレオくんと僕と彼の周りを囲んでいる。もうレオくんだけでやってくれ。僕は関係ないだろ。僕を巻き込まないでくれ。レオくんも女子の相手をしてくださいよ。なんで無視してるんですか。
「今朝花壇に座っていたのはあなた? 外にいた」
何時間経っただろうというくらい窮屈だった無言の時間をレオくんが引き裂いた。僕の肩はビク、とあからさまに跳ね上がる。
僕は変わらず机と睨めっこしながら首を横に振った。レオくんがなんの予備動作も無しに僕のボディランゲエジに反応する。
「あなたは嘘をついている、違う?」
女子が、なにどうしたの、とヒソヒソ話を始める声が聞こえる。レオくんは少しも動じない様子だった。女子に弁明するつもりもないらしい。
視線を痛いくらいに感じた。一センチでも動くことができない。
もうあっち行って。僕を一人にして。
「レオくん、浅見くんと友達なの?」
女子の誰かが言った。この声は後ろの席の笹沼だ。
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