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キラキラ

「でもあなたとようやく話ができて、俺はとても嬉しい」  僕はなんだかマフラーに顔を埋めたい気持ちになってそっと俯いた。息が睫毛にかかって水滴が視界でキラキラ光るから、レオくんがすごくキラキラして見えてしまった。  レオくんが僕と距離を詰めてくる。 「あなたの名前は?」 「あさみ るか」 「Luca……いい名前、素敵な名前……ルカ」  ルカ、と彼は歌でも囀るように何度も何度も僕の名前を呼ぶんだった。  僕はその度に心の中でびくびくしていた。柘榴の実を食べた時のような不思議な気持ちになる。変な人。変な人だ。  肩を掴まれた、びっくりして見上げたら、レオくんは思いのほか僕よりずっと背が大きくてもっとびっくりした。プルシャンブルーの瞳が雪のしじまを繕って僕だけを見つめている。 「俺はレオ。レオでいい。レオって言って、ルカ」  レオ。僕は心の中で呟く。レオ。  音のない世界でレオはにこと笑ったので、僕はたじたじしてしまった。  それから僕たちは色んな話をした。 「ルカ、好きな色は?」 「しろ」 「じゃあ雪が好き?」 「すきだよ」 「四季、好きな四季は?」 「はる あき ふゆ」 「春と秋は経験したことがないな。素晴らしい?」 「はるはあけぼの あきはゆうぐれ」 「……どういう意味?」  僕ははぐらかす。そうしたらレオが楽しそうに首をすくめて笑った。  校舎裏の塀が言葉で溢れていく。僕の言葉だ。  言葉が誰かに届くのが楽しくて嬉しい。調子に乗っていろんなことを書いた。 「じゃあ好きな食べ物は?」 「だしまきたまご」 「分かる、この国のソウルフードというヤツ、だね? 醤油をつけるの?」 「だいこんおろし しょうゆ」 「ダイコンオロシ……? 大根?」 「だいこんを すりおろす」 「食べてみたいな」 「おいしいよ」  僕は続けて塀に文字を書く。  

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