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きっと
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僕たちの『眠り姫』は終盤に差し掛かった。深緑のコートに上品なベルベットのペリイスを羽織っている王子が、百年くらい放置されている森の中に足を踏み入れるシーンだ。
このシーンを昨日見た。昨日見た時僕は観客だったけど今は違う。
暗転して、次は古びた城の中の一室のシーンだ。
僕は舞台袖を出て黒子の合間を縫いながらベッドの上に仰向けに横になる。エミリとアイリが僕の肩をぽん、と叩いて笑った。笑った、ように見えた。
ここからのシーン、姫の台詞はない。王子が一方的に喋るだけだ。姫が呪いをかけられるシーンから今まで時間があったので、その間にマミコと姫役を交代したのだ。
ちなみにレオは僕がマミコと姫役を交代したことを知らない。
僕は淡々と演技をこなす彼が、いつ僕とマミコが姫役を代わったことに気づくのか心底気になった。
気付いた時、果たして彼はどんな反応をするのだろう?
目を閉じて眠ったふりをしていることが惜しかった。呪いをかけられて眠っている設定なのに、口元が緩んで仕方ない。
カツ、カツと彼のブーツの音が聞こえてくる。
彼は昨日言ったように僕にキスをして抱き上げて褒めちぎり、最後には自分の国に連れ去って盛大に結婚式を挙げてくれるのだろうか。
昨日の仕返しだ……レオ。
君のぎゃふんと言う姿が待ち遠しい。アドリブでなんとかしてみせろ。
数十秒の後、暗転していた照明に光が灯った。
劇が再び始まった。物語が進んでいく。時間は刻々と過ぎてゆく。
きっと忘れられない思い出になるだろう。
きっと。
僕は王子の姿を認めながら、薄く開いていた瞳をそっと閉じた。
終
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