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嘘吐いたんかい
「ほつれたところは無い」
「え?」
「嘘吐いた」
「嘘吐いたんかい」
「あなたの裁縫は完璧だからね」
「ありがとうだけどなんか違くない?」
困惑している僕に助け舟を出すようにマミコが口を開く。
「話があるのよ」
僕は依然として困惑しながら彼女の方を見やった。
「浅見くんが喋れるってことは、もう私が姫役をやることもないと思うの」
だから、と彼女は続けた。
「だから今日は浅見くんが姫役をやって」
彼女はなにを言っている?
「ドレスのサイズは問題ないと思う。ウィッグも用意してあるから気にしないで。メイクもエミリとアイリができるわ。だから大丈夫」
マミコが親指を立てて僕にウィンクする。僕は首を横に振った。
「そんな急に言われてもできないよ!」
「だけど私がやってもレオくんのいい思い出にはならない、でしょ?」
僕の言葉を遮るように彼女は言い放つ。
僕は想像だにしない彼女の言葉に口を閉ざす。
「私はレオくんに思い出を作って欲しいと思う。その気持ちは今でも変わらないから」
彼女は僕を見据えて静かに言った。
「だから浅見くんがやるのよ」
彼女の学芸会に対する思いは僕と同じだった。僕は静かに深呼吸をして、彼女に言う。
「だけど脚本もセリフも僕は分からない。ぶっつけ本番なんて、声が出たとしてもできない」
「大丈夫、考えがある。必ず上手くいく」
きっと忘れられない思い出になるわ、と彼女は言った。
僕はその考えを一通り彼女から聞いた。
エミリとアイリも笑っている。
なるほど、それは面白そうだと僕は思った。
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