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……で、

「早く来たなら付けてくれればいいのに」 「ストオブの番なんかしたくないわ」 「私たち忙しいのよ」  僕は笑った。 「頑張って」  彼と手を振って別れて家庭科室まで歩く。 「レオくんとなにかあった?」  エミリが僕に聞いてきた。既視感を覚えながら微笑む。  彼女たちも前とは違って明るかった。 「あったよ。仲直りした」  僕の言葉に二人は大きく頷いた。 「聞いておいて悪いけど、そうだと思った」 「だって二人とも表情が全然違うもの」 「エミリとアイリのおかげだよ、ありがとう」  僕が言うと、そんなことないわ、と正面から否定された。 「私たちが邪魔をしなかったら、きっともっと簡単だった」 「そうかもしれない」  でも、と僕は続ける。 「でも、これで良かったんだと思う」  エミリとアイリは何も言わなかった。複雑そうに笑って、それからまた二人で秘密を共有するように顔を見合わせて笑うんだった。  家庭科室の扉を開けると、暖かい空気が僕たちを歓迎した。ストオブが付いている。火の番をしていたのは、エミリでもアイリでもなくて、マミコだった。  マミコは今日の舞台で着る役者の衣装を着ているトルソーに囲まれて手持ち無沙汰そうに立っていた。僕たちを見つけるなり、少し会釈して僕たちに近付く。  彼女は僕に向かって言った。 「手紙を破いて、ごめんなさい」  彼女が僕に頭を下げた。スクールカーストの頂点に君臨する彼女が、この冴えない僕に頭を下げたのだ。僕は大慌てだった。エミリとアイリに助けを求めるように目配せしたけれど、彼女たちも粛々と現状を受け入れている様子だった。 「昨日レオくんにも謝った。少し嘘を吐いたことも……ごめんなさい」 「いやいいよ。気にしてないよ。全然大丈夫だから。だからもう頭上げてよ」  彼女は僕の声を聞くと顔を上げた。彼女はたじたじしている僕の顔を見て、その後また頭を下げた。鳥口、と僕が彼女の名前を言う。そうしたら彼女は顔を上げた。もういつも通りの彼女だった。 「それよりも、今日の劇成功できるように、頑張ろう……で、ほつれたところってどこ?」  なんでマミコがここにいるのか分からなかったがとりあえず置いておいて、僕は双子に問いかける。彼女たちは心底楽しそうに笑った。  

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