62 / 66
四の五の
「ルカと出会えなかった世界なんて、きっとすごく退屈だったと思うから」
僕はそう言った彼の表情を、きっといつまでも忘れない。
*.○。・.: * .。○・。.。:*
早朝の高校はやっぱり静かだったけど、昇降口から校舎の中へ入ったら、二人の影が見えた。僕たちは顔を見合わせて近づくと、エミリとアイリが下駄箱に凭れかかっていた。
二人は僕たちを視界に入れるなりおはようと口を揃えて言う。
「いろいろごめんなさい」
「許して欲しいとは思わないけど」
「本当に、悪いことをしたと思う」
「ごめんなさい」
彼女は僕らに向かって頭を下げた。
「いいよ。それより僕のこといろいろ庇ってくれたみたいでありがとう。レオから聞いた」
僕が昨日高校を無断早退したことに対して、エミリとアイリはあーだこーだ理由をつけて担任を丸め込んでくれたらしかった。
彼女たちは僕の声を聞くと顔を見合わせて目を見開く。
その後に僕に向かって花が綻ぶように笑ったんだった。綺麗な花が二輪。
可愛い人たち。
「ルカくん、ちょっと家庭科室までいいかしら」
エミリが言った。
「どうして?」
「衣装が昨日ほつれちゃって……慌てて繕ったんだけど本番前にあなたにチェックして欲しいから」
「エミリとアイリが繕ったのなら大丈夫だと思うけど……」
「四の五の言わずに来て」
僕は彼女たちの鬼気迫る様子に反射的に頷いた。怖い。
僕に引き摺られてレオも付いて行こうとしたら、アイリがそれを遮る。
「レオくんは今日日直でしょ」
レオは舌を出して嫌そうな顔をする。
「教室、まだストオブ付いてないわよ」
「とっても寒かった」
エミリとアイリの言い草にレオは不満だったようだ。
ともだちにシェアしよう!