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第1話 いきなり出産

さびい。猛吹雪の中、俺は仕事に出た。さびい。 俺もう四十路おっさんだから厳寒期は耐えれんのよ。 と、ぶちぶち文句言いながらも手早くソリの用意。 相棒の魔法動物(トナカイ)にハーネスを装着する。 こいつの名前はオロン。オロンは変態。 手綱を引くだけで「緊縛プレイおつ!」とかのたまう変態トナカイだ。 「はぁはぁ手綱がおマタに食い込んじゃううぅぅ」 「黙れ鹿野郎」なんて、いつもの応酬してから出発だ。 ソリには一応の暖房がついている。 起動までに時間がかかるオンボロだけどな。起動に時間かかるくせに、更にソリ内が適温になるまでにも、時間が掛かる。 それまでに凍えてるのも嫌だから、酒飲んで温まる。 懐からスキットル(携行飲料缶)を出して、ぐいっと煽った。 度数のキツイ蒸留酒が喉を心地良く焼いてくれる。 ぷはー生き返るぜ。体も温まってきた。 サンタ職に就いて20年くらいか。 ガチ寒い吹雪の中、俺は猛然と仕事をこなす。 仕事ってのはあれだ。 サンタだから、ほら、あれだ。 良い子にプレゼントフォーユーするやつだ。 一般的なサンタイメージだと、赤い服・白いもじゃヒゲ・丸眼鏡・赤鼻の腹出たふぉっふぉっふぉって笑う陽気なおじさんだろ。俺もそれだ。 腹出てないけどな。 ヒゲもじゃでもない。鼻の下と顎に無精ひげがあるくらいだ。 丸眼鏡もしてねえ。俺、目がいいんだ。 赤い服は着ている。 サンタ保存協力協同組合から支給されてるサンタ服は最高級のブランド服。 装備してるだけで、そこはかとなく体力を底上げし、極地極寒仕様の生命維持装置も付いている。簡単にいうと、これ着てるだけであったかい。 ちゃんと空気吸える。寒さで口や鼻の水分が凍ることがないのだ。 高性能なサンタ服。デザインも多数あって選べる。俺は裾が長いサーコート風のやつを選んで着用中だ。 んで、腹出てない。 これ重要なことだから二回言う。 サンタってのは苛酷な職業なんだ。 クリスマスシーズンともなると世界中を飛び回らなきゃならねえ。体力のいる職だ。 だから春夏なんかは山登ったり遠泳したりトライアスロンして体力つけてる。 おかげでアスリートなボディを手に入れた。腹なんか出ていない(三回目) 酒は好きだがビールは飲まないのでプリン体に好かれてもいないのだ。 俺の肉体は常に体脂肪率が一桁台。体力は備わったが寒さには弱いという、ちょっと矛盾した肉体なのである。 まあ、それでも支給品のソリには暖房あるし…欠点だらけだけど。 相棒の鹿オロンはそれなりに仕事するやつだし…性癖おかしいけど。 なんとかやってる。 今日でクリスマスも最終日。仕事納めだ。 ちゃっちゃっと世界中回って子供たちを笑顔にしてくるかね! 夜空をソリで飛翔する。 最新型サンタ専用トライディングソリはマッハ0.8で魔力を原動力にひた走る。 トナカイが引っ張っているのは、なんか見栄えがいいからってだけだ。 一件一件、丁寧に配る。 配達リストはソリ付属モニター画面に映し出されているから、それ通りに行く。 道順も最短ルートを提示してくれて、自動的に次の目的地へと連れて行ってくれる。 こういうとこ、サンタ保存協力協同組合は頑張ってると思うね。 最後の一件を配り終えて、「早よしろ」と変態鹿オロンの手綱を力入れて引っ張る。 「ああん」とか気持ち悪い声を出すオロン。 声は気持ち悪いがスピードは上がった。やつも分かっているのだ。もう仕事は完了した。後は家に帰って仕事納めの祝杯して新年を迎えるだけということを。 意気揚々と家へと凱旋する。 誰かが待っている我が家ではないが、温かいペチカ(暖炉)の前で滋味深い琥珀色の酒を堪能したい。ささやかながら祝い用の熟成肉を引っ張り出してきて火で炙ろう。 その上にトロリ蕩けたチーズをかけて粗挽き胡椒をまぶすんだ。絶対うまいだろうが。 思い出すだけで涎が垂れてくる口元を舌で拭って、ポケットからまたスキットルを取り出し、中身を飲み干した。 蒸留酒が切れた。 意地汚く突き出した舌の上に、一滴だけポトリ。 それから何度振っても最後の一滴より多くの酒は落ちてこなかった。ちくしょお。もっと持ってくればよかった。酒がないと思うだけで、また寒さがぶり返した気がするぜ。 ぶるり。震えて手綱を握り締める。 ソリは我が家のある極北の大地へと近づいて行く。けれど、その途中で思わぬアクシデントが起こった。 「うああああ陣痛キタアアア」 突如、オロンが産気づいたんだ。 産気・・・て、はああ?!!! お前、雄だろうが妊娠なんてありえんだろうがああああああ ていう意味のないつっこみはしない。 それよりも、「うーんうーんアハ~ンんぅ、あん、ああん…」と、陣痛なのに色っぽい声出すドM鹿オロンに、「キモイ声出すな魔法動物だから喋れるとかそんなメルヘンな設定いらねえんだよ」と遅ればせながらのつっこみをする方が大事だったからだ。 あと、この世界の魔法動物は、雌は勿論のこと雄でも妊娠可である。ファンタジーだな。 「うっ、うっ、でそう、でちゃううう」 「なんだよマジで産まれるのか?!」 雪の上で、じったんばったん暴れる妊婦もとい妊夫もとい妊鹿。 股の間から何か赤いものが覗いている。 ────赤仔じゃね?! 急いでオロンを担ぎ上げてソリへと乗せる。 見栄え重視ソリだからオロンなんぞなくとも空を飛べる。 『妊娠中は高度飛行をお控え下さい』と大昔に読んだ飛行マニュアルを思い出すが、そういうのは丸無視。高速最短距離でソリ専用国道をかっ飛ばし、無事に我が家へと帰宅した。

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