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第2話 金玉もぐ算段

「ホラナちゃんに種付けされちゃったんだな」 「ホラナちゃんって誰だ?」 「んーとぉ、マクタヌンさんとこの若いこ。持久力あって素晴らしい」 何が素晴らしいかは問い質さないでおこう。 はふ~ん なんて、満足気に溜息吐いてベッドに横たわる産後のオロンは人型だ。 魔法動物であるこいつは動物形態で仕事をし、普段は人の姿をとることが多い。 動物の時も綺麗なシルバーグレイな毛並みをしているのだが、人型でも煌めかしいストレート銀糸を胸の前に垂らして、なんだか婀娜っぽい色目遣いで俺の方見てる。 産後に色気放つこいつなんだろうな。鹿のくせに。 一方の俺は、産まれたてのバンビもとい仔鹿を産湯に浸している。 たらいに湯を張って、その中で血だけを流し落としてあげているのだ。 ふむ。こんなもんかなと洗い終わった仔鹿をタオル仕上げする。水分を含んで萎れてた毛並みだが、拭けば拭くほど、ふわっふわ、たんぽぽの綿毛みたいになった。 こいつもシルバー系か? 父親が誰だか分からん毛並みだな。 オロンが告げる父親らしきホラナは赤毛の若雄だそうだ。 赤毛要素皆無な仔鹿を見て思う。こいつ、ちゃんと認知されるのかな?と。 オロンにそのことを訊いてみる。 「ホラナちゃん、まだ下っ端で稼ぎないから子供いらなさそー」 「そうか。なら、マクタヌンと話するしかねえな。しっかし、あそこは既に何十匹もいるからな。たかが一匹と言われそうで怖えわ」 魔法動物を多数雇っているやつにありがちなのが、面倒見切れねえで産まれた仔を売るとか、ひでえと間引くやつもいるらしい。 マクタヌンが、そんなひでえやつじゃねえといいが。 なんせやつとの面識が薄いので何とも言えん。 命の問題もだが金の問題もある。 認知は無理にしても養育費はいただきてえもんだ。 こちとらそんな蓄えがあるわけでもねえ。俺の酒代をなめるなよ。 最低限の生活はサンタ保存協力協同組合で保証されてっけど、嗜好品は別なんだ。 自慢じゃねえが俺の酒代エンゲル係数まじやばいからな。 「ホラナちゃんの金玉もいで売り飛ばしてやろうかな。そしたら浮気もできないし」 「いい考えだ。魔法動物の睾丸は高値で取引されてる」 他にも角や爪、胆のうも薬になるから売れる。 マクタヌンに、ない袖は振れぬと言われたら問答無用で股間のブツをもぎ取ろう。 そう決意して、オロンの腕に洗い立ての小さな仔鹿を乗せた。 仔鹿はさっきまで「ぇふえっ、ぇふえぇっ」と、しきりに啼いていたが今は落ち着いている。 鼻をひくひく動かしオロンの脇のとこに擦りつけ行動。 …これは、どういう意味があんだ? 「んー? あ、そっか、おっぱいか。こっち、こっちだよー」 仔鹿は本能的に美味しい匂いのするとこを探してたらしい。 脇もおっぱいと同じ匂いすんのか? 初耳だぜえ。 オロンが胸の方まで仔鹿の鼻を誘導させ、それに気づいた仔鹿はオロンの雄乳首を銜えた。 「ああん。この仔テクニシャ~ン」 授乳で欲情すんな変態鹿め。 仔鹿は本能のままにむしゃぶりついているだけだろう。 ちゅーちゅー吸ってお腹いっぱいになったら丸まって寝てしまった白い仔鹿バンビ。 平和そうに寝てやがるバンビ。思わず語尾がバンビる。 魔法動物であるこいつは、野生動物とは違って敵に捕食される心配もねえから、産まれて直ぐ立ち上がらなくて済む。 こちとら仕事後の急な出産でくたびれまくってんのに、この何も知らないあどけない寝顔みてたら、すげーホッとしちまった。 なんだろうなこの淡い気持ち。 サウナでカーッとなってあったまるより、ぬるま湯に足つけて下からじんわりほこほこしたような気分だ。 ホランも仔鹿抱いたまま寝ちまったし、俺も寝るかな。

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