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第3話 父ちゃーーん

三日後、早速マクタヌンのツリーハウスを訪問した。 「産まれたか。そいつぁ、おめでとう!」 マクタヌンは気のいいやつだった。これまでに関わったことなかったから知らなかった。 マクタヌンの名前は知ってたんだ。ここら一帯を縄張りにしているエヴァネンツィ一族を統括するボス的存在ってことくらいは。つっても、俺の方が先住だから、菓子折り持って挨拶に来たのはマクタヌンの方だけどな。その時に一度しか会ったことねえ。 で、今日が二度目。 オロンの事情(ある意味情事の内容)を話したら、満面の笑みで養育費を払ってくれた。 気前いいやつだぜ。成人するまで金の面倒見てくれるってさ。 サンタほど体を酷使する業務じゃねえが、マクタヌンところも魔法動物と連携して商売してるらしく、今は年末と新年の飾りを手掛ける事業に忙しいという。クリスマス終わったばかりだっつーのに、大変だねえ。だがそのおかげで金が手に入る。ありがてえこった。 金の小粒が入った袋を懐にインして、そそくさと帰り支度をする。 外は吹雪いちゃいないが本日も零下の気温だ。 ちょっとだけスキットルから命の水(酒のこった)を煽って体を温めた。 この状態で外出しねえと寒さで凍えて家に辿り着けんのだ。 「なんだ。もう帰るのか。しみったれた呑み方してねえで、うちで呑んでけよ」 マクタヌンが酒宴に誘ってくれた。 女将さんの作る料理も旨いという。ごくり。喉が鳴ったが…。 「くうぅ…魅力的な誘いだが、ミルクやんねえと」 「ん? オロンは育児拒否か?」 「んなわけねえ。めっちゃ可愛がってる。けど、ベッドから出られねえんだ。熱が出てよ」 そうなんだ。オロンのやつ、産んだ直後におっぱい出たし元気なように見えたんだが、昨日は熱が出た。 大慌てで医者呼んでオロンを診てもらい、ついでに俺も「あんたが父親だね」と勝手に断定され仔育てについて説明を受けた。 いや俺父じゃねえしと口挟む暇なく、あれこれと教え込まれ、気づけば俺は哺乳瓶でミルクを作ってあげれるイクメンになってしまっていたのだ。 その後の背中とんとんゲップ出しも成功だ。 「手伝ってやんねえと、ワタゲが死ぬ」 ワタゲとは仔鹿の名だ。 俺が綿毛みてえと何度も呟いてたら、「んじゃあワタゲでえ」とオロンが適当に名前決めた。 おいおい旦那に相談なしかよ。 「そうか大変だな。あ、飯ぐらい持ってけ。うちのやつの飯は旨いぞ。直ぐ包んでやるから、待ってな」 そう言ってから、女将さんがいる台所へ注文しにマクタヌンが席を外す。 いただけるってんなら断るのもねえ。いただこう。 どんな料理だろう。この時期だからレノック(鱒)もチュバック(鯉)も旨いな。 久々に温かい飯が食えるかも。家にいたら冷凍魚をスライスした削り節しか食わねえ。 酒に合うからいいけど、たまには温かいもん食わねえと。病人もいるし~と、つらつら考えつつ、そわそわ待ってたら「なあ、あんた…」と耳に聞こえた。 あんたとは俺のことかあ? つい、「ああ?」と睨んで返す。 美味しい妄想を途中で打ち切られたのもあって不機嫌さは引っ込めれなかったんだ。 赦せ若者よ。うん、なんだ若者だなマジで。赤毛の、なんだか容姿がオキレイに整っててスラッとした体躯の美青年だ。 俺の睨みに青年は「う…」と一瞬怯んでいたが、直ぐに気を取り直して再度、俺に話しかけてきた。いいねえ。根性あるねえ。好感度上げちゃうよ俺。 「あんた、オロンと一緒に暮らしてる…レヴンで間違いないか? その、オロンは…オロンは大丈夫、なのか? 仔も、無事に? どんな仔? ワタゲ? あ、いや、それよりオロンが…っ、熱…出たって…」 質問の多いやつだなあ。それに目が泳ぎながらの質問だ。なかなか要領も得ない。 だが言いたいことは分かるぞ若者よ。 「オロンを心配してんのは分かった。そう言うおめーは何もんだ?」 「あ、すまない。名乗りもしないで…俺はホラナ。オロンとは、そういう仲だった。だから、もしかしてその仔は…産まれた仔は…」 うおーい。お前がホラナかよ。 オロンのやつが、ホラナちゃんは種鹿だと言ってたのを思い出す。赤毛の時点で気づけ俺。

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