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第11話 おっサンタの独白

50代オッサン。性欲の衰え知らず。二匹の若い雄鹿たちを毎日のように貪っている。 特に変な薬飲んでるわけじゃねえのに股間のキノコは衰えというものを知らない。 萎えるどころかのビンビン状態で、なんなら二十代の頃より滾ってるわ。 二十代ってまじクソな時代だったからな。 真面目で脳筋な俺は、若さも手伝ってか自身を高めるのに必死で、周りが見えちゃいなかった。気づけば裏切られ、国は焼けるわ家族は殺されるわ散々な目に遭った。 ボロックソになって一人この地に辿り着いて、何もかもが真っ新な銀世界で朽ち果てようと思った。 そんな時に出逢ったのがオロンだ。 オロンは魔法動物(トナカイ)の中でも変わり者らしく、一鹿でいた。 どこにも所属せず、誰にも媚びずに、真っ直ぐ前を向いて生きていた。 そんなやつが、全部を失った俺に言ったんだ。 「あんた、サンタやってみな。ちょうど前のサンタ死んで空きがあるんだ」 って、どういう意味か最初は分からなかったが、サンタ保存協力協同組合の連中はヒャッホーーーーウウウして俺の支度を整えてくれたな。前のサンタは過剰労働で酷使されて労災入院したらしい。死んではいないらしい。ほぼ死んでるが。 「死にたいなら、必ず死ねる現場で働いてみようねー」 なんて、オロンは冗談交じりに言ってたけど、本気だったかもな。 俺は生きてたってどうしようもねえし、どう扱われようが、もうどうでもよかった。 過酷な現場ってのは、やってみて肌身に染みて分かった。なんせ旧型ソリで寒さに凍えながらの高度高速飛行だ。一晩で世界中を回らねえといけねから、時間間隔も狂うし時差ボケどころか時差酔いと低酸素中毒に喘いで瀕死になれる。 しかもその一晩は何度も繰り返される。 一国終わったら、また次の国。次の国に行くと再度日にちを戻す。 戻った日付、失う時間間隔。今何時だという思いさえ仇となるから考えないようにする。 酒を煽る。無心で体を動かす。 そうやって長時間労働を乗り越えた時にゃあ身も心も疲弊してボロボロだ。 故郷を追われてオロンと出会ったあの時よりボロボロで、だけどあの時より充実してたな。 「あの地平線をごらん。キラキラしてるよお」 サンタ仕事終わった後、オンボロなソリの上で「あえー?」なんて呻きながら見た青い海。 俺の故郷の島が見える海。アホみたいに輝いてた。 「オロン……この海って越えれるか?」 「なーに言ってんだい。これすら越えて世界中、今までプレゼント配ってたじゃないか」 オロンの言葉に俺は目を丸くする。まじでか。あんなに遠くて、俺をボロックソにした故郷の上を、俺は何度も何度も高速ですっ飛ばして仕事に精を出していたのか。ははは。 何だかバカらしくなって、俺は笑った。 笑いながら、涙がポロポロ零れた。 あの頃に比べて今の何たる充足していることか。 オロンを相棒にしたサンタ業は過酷だけど充実していた。 時折、悪夢にうなされるから酒飲んで気を紛らわせていたけれど、体を酷使してりゃ家族の後を追おうかという考えも沸いてこなくなる。 新たな銀世界で一人、生きて行こう。そう思えた。 時が経ってオロンが出産した。可愛い仔鹿の誕生だ。家族が増えた。 白いふわふわなワタゲ。 黒ふわふわなモウネも。 二鹿とも、俺の家族で、恋人だ。 モラルに反するとか考えねえ。そういうしがらみはもう、とうの昔に置いてきた。 こちとらいい歳こいたオッサンだぞ。欲望のまま生きるわ。 俺の両脇、両腕を枕に寝入る二鹿を見守る。 どう見たって可愛い。 モウネちゃんも、もう直ぐソリ飛行免許を取るんだそうだ。 受かったら、この家に引っ越してくると言っている。 オロンは引退を考えてる。 ホラナと一緒に、町で一軒構えて何か店屋をやるらしい。 料理うまいしレストランでもやればいいのにと思う。 極北のこの地でも町はある。 特に何かの国に属しているわけじゃない。 多数の一族がそれぞれにトナカイと遊牧したり、トナカイに曳いてもらって空を回遊したりと、特徴ある暮らし方をしている中、安全な地に定住した連中が興した町だ。 この地の人間は逞しい。魔法動物たちと共生しているのが、何より力強く素晴らしい生活スタイルだ。故郷じゃ、こうはいかなかった。 独善的な思考のやつらが多く、国を奪い取る理由さえ偽善だった。 偽善のハリボテで俺の家族を皆殺しにした。 もう二度と、俺の家族を奪わせやしない。 俺の腕の中にいる限り、最期まで俺の可愛い二鹿を守ると誓おう。 故国ソレイオンの騎士、レヴン・ストゥハーの名に懸けて────。 ーー 終 ーー

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