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第14話

一息置くと再び言葉を続けた。 「昨日も言ったが、俺は本気で女を好きになった事がなかった。それは俺がそういう人間なんだと思ってた。けど、おまえと会って、そうじゃないって分かった。おまえを初めて見た時、年甲斐もなくドキドキした。おまえに、誘われているように見えたって言うのも、間違ってねえよ。知らずにそういう目でおまえを見てたからな」 テーブルに置かれたコーヒーの入った湯呑みを手を取ると一口すすった。 「おまえを見てるとガキみてえにドキドキして目が離せなくて、会えないと顔見たくて堪んなくて、店に週一くらいだったのに、毎日のように通うようになった。最初は認めたくなかったけど、そこまでなったら認めざるを得ないだろ?それに、俺にもそういう風に人を好きになる事ができるんだって分かって、ホッとしたよ」 そこまで源一郎は一気に話すと、落ち着かないのかまたタバコを咥えた。 「35歳にして、初恋だ」 そう言って、源一郎はニヤッと子供のように笑った。 「はつ、こい……」 雪明の心臓は爆発するのではないかと思うくらい、鼓動が早くなっていた。 「そ、それは、誰に……?」 ここで自分ではない、などの勘違いがあっては堪らない。雪明は確認の為に、源一郎に聞いた。 「おまえに決まってんだろ!」 「え?はっ?う、うん、そ、そうだよね、この話の流れだと……」 自分の顔が酷く熱い。 「この爆弾低気圧が始まって、おまえの事が心配で仕方なかった。都会育ちで無知なおまえが心配で、適当な理由付けてここにきた。気持ちも確認したかったし。最初あんな風におまえを拒否しちまったから、どうにか修復できないかと思ってよ。狡いとは思ったけど、この状況利用させてもらった。ゲイなのを認めたくなかったけど、何よりおまえを好きな気持ちを否定したくなかった」 源一郎の発せられる全ての言葉が恥ずかしく、顔を上げると事ができなくなっていた。 「源さんがいてくれて本当に良かったって思う。ありがとう、源さん」 「そんなお礼が聞きたいわけじゃねえ。雪、おまえはどうなんだよ?もう、俺に興味はないのか?」 「俺、俺は……」 最初から源一郎に惹かれていた。ゲイである事で拒絶され、源一郎への想いに蓋を閉めた。だが、共に過ごした二日間で閉じたはずの蓋からは、すでに想いは溢れていた。 「す、好き……源さんが、好きです……」 そう言った途端、雪明は恥ずかしさの余り顔を両手で隠した。 (恥ずかし過ぎる……!) 「俺も好きだ、雪。気が強くて勝ち気で、その気の強さが滲み出てる目が、子供っぽかったり色っぽかったりクルクル変わる表情が可愛くて堪らなかった」 雪明の動きが止まる。フワリと源一郎の腕が雪明を包んだ。 「おまえに出会えて良かった。出会わなければ、俺はつまんねえ、クソな人生を過ごしてたと思う」 「源さん……好き!」 溢れた想いを雪明はぶつけると、源一郎をぎゅっと抱きしめた。 何度も角度を変え、啄むキスを繰り返した。 「でも、俺思うんですけど……」 不意に雪明は唇を離した。 「源さん、もしかしてゲイじゃないんじゃないですか?」 「なんでそう思う?」 「今まで女の人、抱いてたんですよね?」 「ああ、まぁ。体は反応したからな」 「じゃあ、バイって事?」 「わかんねーな。ただ、大学の時、ふざけて見たゲイビに興奮して、それからそうなのかもしれないって思っただけだし……。まぁ、今思えば比較的、女より男を目で追ってたな」 雪明を膝に乗せると、 「本気で人を好きになったのは、おまえが初めてだから、良くわかんねー」 そう言って、フワリと笑った。 (サラッと、恥ずかしい事言うな、この人……) 源一郎の言葉に赤面し、思わず顔を伏せた。 「あっ、わかった。源さんは男が好きなんじゃなくて、俺が好きなんだ。そう思えば、絶対ゲイってわけではないから、気が楽になりません?」 何気に思った事を雪明は口にしたが、その言葉に今度は源一郎が顔を真っ赤にした。 「別にどっちでもいい……俺がおまえが好きな事に変わりはないから」 源一郎の大きな手が雪明の両頬を挟むと、顔中に源一郎のキスの雨が降ってきた。額、瞼、鼻、頬、そして唇。 「雪……おまえの残りの人生、俺と一緒にいてくれるか?」 熱のこもった源一郎の目は、今までに見た事がない程優しかった。 「はい……」 躊躇う事なく雪明は返事をすると、雪明は源一郎の唇にキスを落とした。 外は晴天で、昨晩までの嵐は嘘のようだ。太陽が照り始め、次第に雪が溶け始めているだろう。 嵐が去り雪解ける頃、僕らは……恋に落ちた。

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