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第2話
飛鳥彦の容姿は決して派手な方ではない。
髪に白いものは混ざってるし皺だって無数にあるし正直もう若いとはいえない。
一般的にいうなら壮年後期のおじさんだ。
しかし飛鳥彦はそのへんのくたびれたおじさん感が全くない。
落ち着いていて大人でしゃんとしているし、若さこそないが、同年代には決してない余裕や懐の大きさと包容力がある。
そんないぶし銀の滲み出る男前の飛鳥彦に、密かに好意を寄せていたのは里都だけではなかった。
当然だ。
仕事もバリバリこなせて、優しくて、誠実で、独身の渋い男を女性たちが放っておくはずがない。
とにかくモテまくる飛鳥彦に何とか振り向いて欲しくて、里都はあらゆるアプローチを仕掛けた。
それはもう、いろんな手段を使ってだ。
里都が飛鳥彦と結婚まで漕ぎ着けたのは執念の賜だと自分でも思っている。
それくらい猛アプローチを重ねたのだ。
それと、彼が里都と同じ同性愛者だったことも幸運だった。
飛鳥彦と里都は二十以上歳が離れている。
所謂年の差婚というやつだ。
今時珍しくとも何ともない事だが、流石に自分の息子が自分たちとそう変わらない年齢の男を連れてきて「この人と結婚したい」と言った時の両親の顔は青天の霹靂…寝耳に水といった感じだった。
昔から男しか好きになれない里都の性質を受け止めてくれた寛容な両親ではあったが、流石にこの時ばかりは揉めた。
自分たちと世代が一緒の男が婿になるのだから当然だ。
あまりにも歳が離れすぎているんじゃないか、価値観が違うのではないか、うまくやっていけないのではないかと散々言われた。
しかし、里都にとって飛鳥彦と以外の結婚なんて考えられなかったし、周りがどれだけ反対しようと絶対に諦めるつもりはなかった。
飛鳥彦は理想の男であり尊敬する人物であり、生涯共にしたいと思った唯一の人だからだ。
この人と結婚するためなら何だって捨てる覚悟があるとキッパリ言い続ける里都に対し、最後は両親も根負けして認めてくれたのだった。
これだけ歳が離れていると、ジェネレーションギャップを感じないのかとよく訊かれる。
しかし、仕事にまっすぐ生きてきた飛鳥彦と里都はものの見方や価値観など共感するところは多々あるし、お互い流行りものにも興味がないタイプの人間なのでそういう世代のズレを感じたことは殆どない。
ただ唯一、たった一つ、ほんの少しだけもやもやとすることはあった。
それは夜の夫夫の営み…セックスのことだ。
飛鳥彦は特別変わった嗜好があるわけでもない。
至って普通…いや、もしかしたら人並み以上に優しく里都を抱いてくれていると思う。
セックスとは互いの気持ちを確かめ合う行為であり、飛鳥彦とセックスするために結婚したわけでももちろんない。
初めの頃、里都自身もそう思っていた。
星の数ほど人がいるこの世の中で、出会い、恋をして、結ばれることができた。
それだけで充分幸せだと。
しかし飛鳥彦のセックスは週に一度、休みの前日の夜に一回きりだけだ。
付き合ってるうちは、週に何回かシていたのが飛鳥彦が歳を重ねるごとにその回数は徐々に減り、今では週一回のたった一度きりになってしまった。
里都は二十代。
思春期ほどではないが、性欲はまだしっかりとある。
つまり週一回の一度きりでは里都自身が物足りないのだ。
しかし、里都はその欲求不満を飛鳥彦にはっきりと言えないでいた。
飛鳥彦だって毎日仕事でくたびれているだろうし、セックスが物足りないなんて恥ずかしいこと言えるはずがないと思っているからだ。
それにそんなことをすれば飛鳥彦のプライドをひどく傷つけてしまうかもしれないし、もしかしたらガツガツしていると思われ幻滅されてしまうかもしれない。
だからこうして休日の前の晩だけ精のつく食材で料理をして、週に一度のセックスをせめて2ラウンドはできるくらいにしようと頑張っているわけなのだ。
しかしその成果は今のところ全く表れていない。
「そろそろ眠くなってきた?寝室に行こうか?」
今日も一回かな…とぼんやり考えている里都に向かって飛鳥彦が訊ねてきた。
「う、うん、そうだね」
里都は咄嗟に作り笑いを浮かべると、グラスに残っていたワインを一気に飲み干した。
飛鳥彦は柔らかく微笑むと席を立ち、何も言わず後片付けを手伝ってくれる。
幸せじゃないか。
里都は心の中で自分に言い聞かせた。
たとえセックスの回数が少なくても、飛鳥彦のさりげない優しさや仕草で、彼がどれだけ里都の事を愛してくれているのかちゃんと伝わってくるのだから。
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