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第3話
「水泳教室 ?」
「そうそう、俺も今通ってるんだけどさ。凄くいいから里都もどうかなって。ね、興味ない?」
ある日里都の元へやってきたのは、同じ団地内に住む専業主夫仲間だった。
彼とはわりとなんでも話せる仲だ。
里都が夫とのセックスの回数の事で悩んでいる事も知っているし、彼が里都とは違い性にかなり奔放で、夫の留守中に宅配業者の男と寝たり、出会い系サイトで知り合った大学生を家に招いては隠れてセックスを楽しんでいることも知っている。
里都からしたら夫以外と寝るなんて到底理解できない事だが、彼の言い分では夫への愛情がなくなったわけではないらしく、むしろ夫婦関係の円満を保つために敢えてやっている事なのだとか。
よく意味はわからないが、家庭には色んな事情があるしやり方がある。
里都はあえて詳しくは聞かないようにしていた。
「ほら、俺たち専業主夫ってさだんだん身体鈍ってくるでしょ」
「ん〜、まぁそうだね」
突然持ちかけられた習い事の話に、里都は気のない返事をした。
はっきり言って全く興味がない。
そもそも習い事とは何か明確な目的でもないかぎり始めようとは思わないものだ。
時間だってとるし、それに伴うレッスン費だって発生する。
家計のことは任されているとはいえ、働いていない身分の里都がそう簡単に決めれることではない。
「里都の悩みにぴったりだと思うんだけど」
しかし里都の薄い反応に怯むことなく男は畳み掛けてきた。
自信満々の表情が胡散臭い気もしたが、里都は一応聞き返してみる。
「どういうこと?」
「だってさ、筋力が衰えてくるとそれだけ感度も鈍るってことでしょ?貴重な週一回のセックスで気持ち良さを感じなくなったらそれこそセックスレス夫夫になり兼ねないじゃん?それに、若いからって怠惰にしてると体なんてすぐに老けてっちゃうんだから。里都の旦那さんが若い子が好きって言ってるわけじゃないんだけどさ、旦那ってのは嫁にはいつまでも若くて綺麗でいて欲しいと思うよ」
以外にも的を得た説得に里都はいつの間にか頷いていた。
ついさっきまで習い事なんて興味なんてないと思っていたのに、心はすっかり傾きかけている。
確かに里都は最近自分の感度についても自信がなくなってきていた。
週一回のたった一度きりのセックスだと思うと妙に力が入ってしまい、快楽に身を委ねることができなくなっていたのだ。
それが筋力の衰えと結びつくとは思ってもみなかったが、考えれば仕事をバリバリとこなしていた時より圧倒的に運動量は足りていない気もする。
買い物の時はなるべく乗り物を使わないようにしたり、エレベーターではなく階段を使うよう気をつけてはいたが、やっぱりちゃんとした運動をしなければ日々衰えてくるのだろう。
確証はないのだが、盲点だったのは確かだ。
このままでは彼の言う通りセックスの回数も減るかもしれない。
感度の悪い相手を抱くなんて苦痛以外のなにものでもないと抱かれる側の里都にだってわかる事だ。
そしてただただ年老いていく里都に対して飛鳥彦の愛情が薄れていくのは時間の問題。
もしかしたらそれが原因で他の誰かに目移りしてしまうかも…
考えるだけで焦燥感に駆られてしまう。
「確かに…それもそうだね」
「ね?でしょでしょ?今なら俺の紹介で無料のお試し体験コースができるんだよ。里都がやっぱ無理って思ったらやらなくていいからさ、やるだけやってみない?」
無料という言葉に更に里都の心は揺れた。
無料のお試しコースもそうだが、何も全く情報がない状態で習い事を探すより、こうして既に通っている知人からの紹介の方がまだいくらか安心できる。
よく聞くと、レッスンは大人数ではなくマンツーマンでやってくれるらしい。
個人個人の目的や能力に応じて指導してくれるし、レッスン日も何曜日と決まっておらず自分の都合の良い日と時間で組んでくれるのだとか。
それなら自分にもできるかもしれない。
「じゃ、じゃあ、とりあえず体験コースだけ…」
里都の言葉に男はにこりと笑うとそっと耳打ちしてきた。
「絶対効果あるって。俺もさ実際通いだしてから旦那が毎晩凄いんだから」
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