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雪降る話をしようか
自分で傷つけた腕のリストカットに雪が染みる。風呂のお湯は降ってくる雪と長い時間浸かっていたいたせいで、お湯は水になってしまっている。
寒い。手と足の先から凍り付いてほとんど感じることができない。肩や頭の上に雪が降り積もり、このまま朦朧としている意識のまま、目を閉じてしまおう。薄い茶色の髪の毛にユキが絡んで光を反射している。
喉に甘くどろりとしたものが流れ込んでくるような感覚に、幸福感を覚えた。それは錯覚に過ぎないが、美味しい毒を飲み込んでいるようだ。こんな幸福感に包まれたまま死ねればいい。
目の前を待っていく粉雪が湯舟に落ちて消えていくように、自分も消えてしまえばいいのに。
死ぬことは面倒くさい。準備も必要だし、俺の死体がどうこうされるのも少しばかり嫌悪感を抱くし、片付ける人への申し訳ないという気持ちもある。
「ああ、死にたい…」
整った顔は、表情が死に寒さのせいで青白い。
俺がここで死ねば、誰かしら「あいつは自殺を選ぶほどつらい思いをしていたのか」と理解してもらえるのではないか。
…いや、良くてSNSで「良い奴だったのに」と喋ったことが一回しかないような奴の承認欲求を満たす為のツール化するか、悪くて誰も話題にせず、静かに忘れていくか、だろう。
分かっている。分かっているんんだ。俺がここで死んでもそれは一時の自己肯定を埋めるに過ぎないということを。
雪が更に降る。もはや豪雪だ。
浴槽から立ち上がると、ざぱりという音がする。自身に積もっていた雪が落ちていった。
その瞬間、意識が途絶え眠りつく。雪に滲む腕から流れる血が、印象的だった。
「せつ、お前はかわいそうなやつだよ」
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