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第1話 クリスマス計画
「よし、クリスマスカードは準備出来たでしょ。プレゼントは前日にお店に取りに行くから……そうだ!ケーキ!ケーキを用意しなきゃ!」
ルクトには恋人がいた。
小柄なルクトより15cmも背が高く、がっしりとした肩幅は見ているだけでほれぼれしてしまう様な男性だ。太陽に当たるとキラキラ輝く髪の毛は金色だった。
セオと言う名の青年はルクトの初めての恋人だった。
出会えたのも奇跡的だが、恋人同士になれたことのほうが奇跡に近いとルクトは思っている。
そのくらい、ルクトはセオに惚れている。自分には見合わないほど眉目秀麗だとルクトは今でも信じていた。
「ケーキ、ケーキっと……んー……これにも牛乳が入ってる……」
パラっと音を立ててレシピ本のページが捲れた。
「これにはクリーム、こっちにはバターミルクかぁ」
1週間後はクリスマスだ。ルクトにとってセオと初めて過ごすクリスマスとなる。だからこそ、いつも以上に力が入っているのだ。
「乳製品使えないとケーキ作るの難しいんだよなぁ」
座る前に作ったミルクティーはもう冷たくなっていた。それでも口内に砂糖の甘さが広がると幸せな気分になれたのだ。
「牛乳を使わないでクリームを作れないかな」
付き合いだしたのは、確かバレンタインの少し前だった。街中がチョコレートやスイーツで溢れかえるようになると、セオは「乳製品が食べれないとこの時期は辛いな」と零したのだ。
その時初めてルクトは、セオが乳糖不耐症であると知った。どのくらいダメなの?と聞いたルクトの頭を撫でながら優しい恋人は「全くダメなんだ」と答えたのだ。
それから何度も、セオは「クリームたっぷりのケーキか、いいなー」とテレビに映るショートケーキを観て呟いたり、「このアップルパイにクリームを乗せたら絶対美味しいよな」と言った。
だからルクトは、セオの夢を叶えたかった。
ダイニングテーブルに置かれていた携帯端末を操作し、ルクトは何とか答えを見つけようと没頭する。
「ルクト、おはよう……何してるの?!」
「うわぁっ、っと、セオ。お、おはよう!」
サプライズでケーキを作りたかったから、セオにバレないように1時間も早く起きた。それなのに肝心の恋人は早起きをしてしまったようだ。
「ん?なんか隠した?」
「か、隠してないよっ!それよりセオ、コーヒー飲む?」
「ふーん……」
セオはルクトの返答に納得したわけではないようだ。慌ててかき集めたレシピ本と携帯端末を背後に隠しながら、ルクトは急いでキッチンへと向かった。
変なの、とセオは思った。起き抜けではあったがいつものんびりしているルクトの行動が怪しい。癖の強い茶色い髪をフワフワと躍らせながら、慌てふためく様子さえも可愛いのだが、ふと心の奥がつーんと痛くなって仕方なかった。
この日から二人の歯車が少しずつずれていくのだ。
ルクトがセオにクリームたっぷりのケーキを作りたかったばかりに。
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