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第9話 クリームの味

「ど、どうかな……」 「すごいな、ルクト!ちゃんとショートケーキになってる!」  2人の前には小皿が2つ並んでいた。その上には苺の乗ったショートケーキが置かれている。乳糖不耐症のセオにとって、ケーキは縁のない話だった。特に生クリームがたっぷり乗ったケーキなんて夢のまた夢の話だ。 「このクリームはどうなってるんだ?」 「これはね、ココナッツクリームで」  牛乳製品を口にできない自分のために頑張ってこのケーキを作ってくれたルクトが愛しくてしょうがなかった。    自分の早とちりで危うく可愛い恋人を手放してしまうところだった。 「それでね、このスポンジケーキはね」 「ああ」  無意識のうちにセオはルクトの髪を弄っていた。 「セオ、聞いてる?」 「聞いてるよ。聞いてるけど、お前がおいしそうで」 「もう、何言ってるの!」  ぷくーと膨れた顔に生クリームの乗ったフォークを差し出すと、膨れっ面のルクトがセオの瞳を見つめる。  何をやっても可愛いなんて最高だな、とセオはケーキより甘い視線を返した。  ココナッツと砂糖の甘い香りがルクトの体を包む。唇の先にあるフォークをチロリと舐めると、優しい風味が口の中で溶けていった。 「ん、おいしい」 「だろ?」 「ふふ、作ったの僕だよ」 「おい、お前ら仲直りしたのか?」  その場でルクトを押し倒してしまうところだったセオは、盛大に舌を鳴らして、後ろを振り返った。  恋人の体温を感じてココナッツクリームの香りに身を任せたくなっていたルクトは、ビクッと飛び上がり背筋をまっすぐ伸ばす。 「兄貴……」 「お、お兄さん」  コートを着たままの兄は苦笑いした。  数分前に帰ってきたはいいものの、放っておけばそのまま服を脱ぎだしそうな弟とその恋人に待ったをかけることにした。  何と言っても、ここは自分の家なわけで。 「俺んちで盛るな」 「帰ってくるのが早すぎんだよ」  落ち着いて会話をしている二人の横でルクトは一人慌てふためいていた。 「ルクト君、久しぶり」 「わっ、えっと、お、お邪魔してます!」 「焦っちゃってかーわいいねー」 「おい、兄貴!絶対ルクトに手ぇ出すなよ!」  セオはルクトを引き寄せて腕の中に閉じ込めた。  今後絶対すれ違うことがない、とは言い切れない。  それは今回みたいに勘違いから始まるかもしれないし、小さなことで言い合いになってしまうかもしれない。どちらかが先に折れて謝らなくてはいけないかもしれないし、少しの間距離を置くことになる日もあるだろう。  近すぎず遠すぎない未来に、「ほら、あの日を覚えてる?」と、このショートケーキが昔ばなしのように語られるはず。 「よし、クリスマスパーティーするぞ!」  テイクアウトをテーブルに並べた兄の声が部屋に響いた。  

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