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第6話 巡る季節

真っ赤に濡れた桜が散った。 あれから季節が半巡し、辛うじて一命はとりとめたものの、あなたは依然目を覚まさない。 「まだ逝かせません」 あなたをお父君の所に、お母君の所に。 (先帝・兄君の所には) まだ……… 微かに空気を切る音がして、開いたカプセルの中、脈打つあなたの手首をなぞった。 頭上高く 蒼穹を流れる河の色をあなたは知らない。 どこまでも あなたと私の遥か上に広がる空の色をくくった紅のもみじの囁きは、あなたに聞こえない。 風が流れていく。 木漏れ日の落ちた瞼は、今も固く閉ざされたまま。 「大日本皇国、万歳」 あなたの憎んだ祖国は滅びました。 あなたの愛した国民は残りました。 もうこの国で、この賛辞を口にする者はいないだろう。 あなたを賛美する者はいないだろう。 あなたとの約束は守りました。 新しい国の基盤はつくりましたよ…… 日本国暫定政府代表の職は、本日辞しました。

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