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第9話 からくれなゐに【完】
名は過去に置いていこう。
過去の名前は、もう要らない。
同情ではない。
決意だ。
(あなたの過去と共に、未来を生きる私の覚悟です)
だから、こんな事だってする。
あなたの顎を指で持ち上げて、掠めただけの口づけに、あなたは真ん丸の目で私を見つめ返した。
そんな顔、するんですね……
頬を真っ赤に染めて。
でもやめてあげない。
「お前を愛しているから」
二度目も強引に。
「こうするんだ」
唇を奪う。呼吸も、吐息も、唾液も、温もりも。
分かち合おう。
もう私達は、ひとりじゃない。
空が笑う。
私の遊戯を。
それでも、あなたに近づけたのなら。
誓う。
生涯を、あなたと共に。
遊戯であっても、愛を込めて。
この遊戯で、あなたの生涯に愛を注ぎ続けよう。
血塗られた我が祖国をこの先……
十年後
二十年後
三十年後
その先も……
美しい国だと言ってくれる人が現れるだろうか。
現れるまで。
いつか、多くの人々がそう言ってくれるまで。
「生きよう」
抱きしめた腕の中で、お前が頷いた。
「ありがとう、スバル」
伝えずにはいられない。
私達は再び起こるだろう奇跡に向かって歩き始めた。
「ご覧」
空が笑っている。
紅のささめきが風に乗って翔る。
蒼穹を結んだ紅葉の大河は、私の未来もお前と結んでくれたよ……
蒼を真っ赤に染めた今日の空を、忘れない。
からくれなゐに水くくるとは
《完》
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