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愛……?(1)
「辻~! 卵焼きちょ~だい」
「仕方ないなぁ、ほら、あ~ん」
「あ~ん」
大きな口を開けてパクりと、差し出された卵焼きだけじゃあなく箸も思いっきり口に含む太田に対し、箸は噛むなって言っただろうって辻が怒鳴る。そうしてイチャイチャしている二人を前に、俺は呆れながら唐揚げを口に入れた。
「辻ん家の卵焼きめっちゃうまい」
「またお母さんに言っておくね。きっと喜ぶと思う」
「そうしたら俺の分も作ってくれるかなあ」
「ばーか。そんなことになったら、俺のお弁当が卵焼きだらけになっちゃうだろう? 太田の分の卵焼きを入れられるスペースは、俺のお弁当箱にはありません」
「ちぇ~」
太田は身長も顔の偏差値も高めなのに、辻の前では犬みたいに甘えん坊キャラになる。髪の毛は癖っ毛で茶髪だし、そう思うと本当に犬にしか見えなくなるほどだ。辻もまた甘い飼い主なせいで、コイツらを見ながら唐揚げを食べていると、唐揚げのはずが、なぜか苦手な甘いものを食べているような気分になってムカムカしてくる。
「辻~、もう一つ入っている卵焼きもちょ~だい」
「はぁ? もうあげないよ。大人しくいい子に、買ってきたパンを食べなさい」
「やだ~、それも食べたい! お願い!」
太田は、辻の柔らかそうな白い頬をふにふにと触りながら、それはどう見たって頼んでいる側のやることじゃあないだろってツッコミを入れたくなるような態度で卵焼きをねだっている。それなのに辻ときたら、言葉では嫌だと示しているも、頬は少し赤くなっていてたまに見る可愛い顔をしていた。
太田が摘まんでいるからではなく、太田に触れられているから赤くなっているんだろうなと思いながら、そんなことには気づきたくもなかったと、ふりかけのかかったご飯を口いっぱいに詰め込んだ。
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