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見つめたその先に。(3)
瞬きも忘れて見とれてしまった。鼓動がまた、早くなる。彼の顔を視界に入れたくなくなって目を逸らすと、それが間違いだったんだ、今度は首筋が目に入ってきた。これまた短く切られた後ろ髪から、きれいな白い首が覗く。食い入るようにそこを見つめれば今度は、体操服で微妙に隠れている場所にぽつんと小さなほくろが見えた。
「ほくろ……」
「は? ほくろ?」
気がついた時にはそこに手を伸ばし、それを押していた。ひんやりとした僕の指先が触れたことに彼が驚いたのか、「うわっ!」と声を漏らす。そのままバランスを崩してしまった彼を、お尻が地面に付き砂まみれになるその前に何とか支えた。
「急に触るなよ。びっくりするだろ?」
「ごめん、ほくろが気になって」
「ほくろ?」
「首のとこ、ほくろがあるんだよ」
「まじで?」
僕がこくりと頷くと、彼は「へぇ、知らなかった」と呟いた。大きいか小さいかそう聞かれたから、砂粒を拾って彼の手の上に乗せた。これくらいの大きさだよとその言葉を付け足せば、珍しく声を出して彼が笑った。
「変なことするんだな」
「変?」
「普通は、砂を拾ってほくろのサイズを教えたりしないよ」
「……だって、」
途端に恥ずかしくなり、その先の言葉を言うことができずに僕は俯いた。行動をバカにされたことが恥ずかしいとそう思ったから。それなのに、指先まで鼓動が響いてじんじんしている。頭には、彼の笑った顔が何度も声と一緒に再生されて。これじゃあ恥ずかしいからと言うよりも、彼のその珍しい反応にときめいているだけじゃあないかと、自分の感情に戸惑い、僕はどうしてか泣きそうになった。
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