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見つめたその先に。(4)

そんな僕にはおかまいなしで、彼は、悪い意味で言ったんじゃあないから拗ねるなと言って、僕の手を握った。大きくて少しだけ骨ばった細い指が、僕の指に絡められていく。驚いて彼を見上げれば、やっぱり僕には微笑んでいるように見えるその顔で「ほくろの位置を教えて」と、そう言った。 「……っ、」 心臓がぐしゃりと握りつぶされる。苦しくて苦しくて、どうしようもなく痛い。 それなのに彼は、早くと言って僕を急かしてくる。何なんだ、もう、わけが分からない。 仕方がないからと自分自身に言い聞かせ、さっきは平気で触ったそのほくろを、今度は震える指先で触れた。でも、……へぇ、そこか、と僕にそんなことをやらせたくせして彼は大して興味のない声を出す。それから掴まれていた手が解放され、今度は両腕を掴まれた。ぐるりと回され、彼の正面へと移動させられる。何が始まるのかと思えば、彼は僕の体操服の首もとを引っ張った。 「……お前のここにも、ほくろがあるぞ」 「え?」 「ほら、ここ」 「……あっ、」 思っていたよりも深いところまで手を入れられた。一点をとんとんとつつかれた後、そのままつーっと背中をなぞられる。 「突然触られてびっくりした?」 「……した」 「さっきのは俺もびっくりしたから、これは仕返しな」 僕は、熱くなった頬を手で押さえながら、彼から目線を逸らした。そんな僕の頭をぽんぽんと優しく叩きながら「ちなみにそこに、ほくろはなかったから」って意地悪くそう言った。 「ひどい。肩貸してあげたのに」 ぼそりと言い返した僕は相変わらず彼と目線を合わせられなくて。頬だけじゃない、触られた頭も背中も熱くて、彼の指先の感触が強く思い出された。噛みしめた奥歯が痛い。じわりと涙が溜まり、僕は砂が入ったと誤魔化して目頭を押さえた。

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