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明日からまた。(14)

声が震える。逃げることが許されないこの状況で俺は、頬の熱が上がるの感じ、意識を指先からどうにかして逸らそうと必死になった。 「三週間は長かったぞ」 「……初めは一緒に食べるのをやめようってだけでしたけれど、その後は……、保坂さんが、もう俺に興味がなくなったのかと、」   もういい加減にして欲しいという限界のところで指先で遊ぶのをやめた保坂さんが、また強く手を握った。根元まで深く、ぐっと。握り返すつもりはなかったのに、自然と指先が曲がる。 「駆け引きじゃあなかったの? てっきりそうだと思ったから、お前の駆け引に気づかない振りをしてこっちが駆け引きする側になったんだけど。でもさ、……どう? 俺のこと気になってきただろ?」 「……っ、」 「まだ素直になれないの? じゃあさ、お昼休みだけの恋人から始めませんか? それならいいだろ?」 気にいらない。何もかもが気に入らない。こんなのズルすぎるじゃあないか。けれど、気に入らないと、悔しいと思う中に、どこか期待が隠れていたらしく顔を出したそれが、心の隅で少しだけ笑ったような気がした。 「……保坂さん、だらしないのでボタン閉めた方がいいですよ」 頷く代わりに嫌みを零した。保坂さんはそんな俺を見て仕方ない奴だと少し口角を上げて「きちんと閉めたらオッケーしてくれるのかなぁ」と冗談を言った。 「でも今はこの手を離したくないから、ボタンは後な」 俺は保坂さんを横目で見ながら、恐る恐る手を握り返した。それに対して何か言われるかと思ったけれど、肘をついて真剣な顔をして俺を見ている。言葉にはしていないけれどこれが保坂さんに対するきちんとした答えになったのだと自覚した。 明日からまた、保坂さんと。 「もう勝手にしてください……」 ぼそりとそう呟いて、胸にじんわり広がる幸福感に頬の熱がまた上がった。 END 雨月リンさんにこんな感じで~とイラストをリクエスト→そのリクを元にイラストを描いていただく→完成した絵にお話をつける という素敵な企画に参加させていただきました。リンさん素敵なイラストありがとうございました。こんぺいとうでもたくさんイラストをいただいているので、ブログなどでご紹介できたらと思います。

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