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想いの先に。続編(1)
席替えが行われる度、次こそは彼から離れられると思うのに、定められた運命なのか毎回隣の席になっている。神様も本当に酷い人だ。
隣にいればどうしたって視界に入ってしまうし、少しでも話がしたいと思ってしまう。俺は彼と、数学のノートを口実に、未だ繋がりを保っていた。
「この後は予定何もないし、ゆっくりでいいよ」
「……ありがとう、」
今日の最後の授業が数学で、俺はまた彼からノートを借りていた。彼は家で復習するらしくノートは持って帰ると言うから、放課後残って写させてもらうことにした。携帯で写真を撮れば一発だろうに、同じ時間をほんのちょっとでも長く過ごしたくて。
二人きりで緊張している俺の手は震え、それがバレないように必死に手を動かす。
「お前、数学の時間毎回寝るよな」
隣の席に座って肘をつきながら俺を見ている彼がぼそりとそう呟いた。
「眠くなるんだ……。ノート、面倒だよな? ……ごめん」
嘘しか返せない自分に申し訳なさが増す。最後のごめんは、時間を無駄にさせてしまっていることに対してだけではなく、嘘を付いていること、好きになってしまったこと、それでも諦められないこと、彼の知らないたくさんの意味を込めた。
「……ううん、それは全然いいんだ。お前に後で見せるからって俺、丁寧に書く癖がついちゃってさ」
「……え、」
「あー、その、汚いノートって見せたくないだろ? ……まぁ後は、お前が俺の字を褒めてくれるから、それが嬉しいのもあるけれど」
何気ない会話だったのだろう。そこにきっと、深い意味はなかったはずだ。でも、それでも、ははっとはにかんだ彼の染まった頬を見ていたら、たまらなく手を伸ばしたくなった。
見ているだけで十分だったのだ。伝えられないこの想いを小さく彼に聞こえない声で呟くだけで良かったのだ。砕け散ってしまうことが怖い俺は、それだけで満足だったんだ。それなのに。
最近では、臆病な自分の中にいる欲張りな自分が顔を出し始めていて、それに少なからず恐怖心を抱いていたのだから、警戒すべきだった。見張っておくべきだったんだ。
もう止められない。スイッチは突然押されてしまう。
やっぱり好きだと心が叫んで、もう自分ではどうにもできないのだ。
「君が好き」
小さく呟いていた言葉を、今、はっきりと口にした。
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