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第118話

本当に記憶を失っているのか?というくらい的確に僕の弱い場所へ狙ったかのように愛撫を施してくるものだから、僕の躰はビクッと大きく揺れる。 「……めちゃくちゃいい匂い……」 陶酔しているような口調、いつもの樹らしくない雰囲気、味わうように舐める舌が肌を這う。 「……誰にも渡したくない……こんなに甘くて美味しい……それにその表情(かお)反則……他の誰にも見せたくない……オレだけの人でいて?」 「っっんァ……僕にとってあなたは『唯一』だって伝えましたよね……?」 その言葉に無邪気に微笑む。今までにはまだ理性が働いていた部分がきっとあったのだろうが、今現在の樹は完全に酔っている状態に見えた。ヒート酔いは確かに自分でもわかるのだけれど、α側がなったのはこの人しか知らない僕にとっては初めて見るものだ。レイプされてた時のαの人達がどうだったかはわからない。 普段、お酒も飲むタイプではなかったし、飲んでも酔った姿も見たこともなく、精神的に若くなっている彼は、番のフェロモンにあてられてしまったようだ。 だからといって強引にことを進めるわけでもなく、ゆっくりと僕をのぼりつめさせていく。 その指が、その舌が、躰の到るところに這ってはその愉悦に僕も酔う。上り詰めていく躰は彼が欲しくても焦らされてるように続けられる愛撫が僕の理性をも崩していく。久しぶりの肌の触れ合いが気持ちよくて仕方ない。 言ってもいいのだろうか……? 今なら許される気がして…… 「……樹……好き……んぅう?!」 言った途端に噛み付くようなキスをされてびっくりしてくぐもった声が出てしまう。ひとしきり口腔内を暴れ回ったその口唇は紡ぐ。 「オレも、雅のこと好き、たぶん、愛してる」 嬉しそうで屈託のない笑顔。気持ちだけとはいえ若いって良いな、と思ってしまう。自覚して芽吹いたばかりの気持ちの答えは『たぶん』 それでもすごいことだと思う。『運命の番』というのは本当に遺伝子や本能によって引き寄せられるのだ、と。 頑なに『運命の番』『唯一無二』を求めたαの男が、その言葉を軽く口に出すわけもない。彼の本質は何も変わってなかったのだから。 『運命の番』を求めたとしても一生に出会える保証はない。それだけαもそうだが、それ以上にΩの人口は多くはない。αに怯えるように生きてきて、兄や父からも逃げた子供時代。それほどにΩの発情期はαの本能を剥き出しにさせる。αに限らずβさえ誘惑するものだ。 芸能界という場所は、とてもじゃないが綺麗と言える世界ではない。その性を利用して仕事をとるΩだっているし、βの女の子のアイドル、芸能界に憧れを持つ女の子、その親ですら枕営業なんていうのは広告代理店の僕ですら目にしたことがある。歌手志望の女の子なんて 「有名作曲家を紹介してあげるから、1回付き合いなさい。」 と言われていて戸惑っていた。紹介されるのに、なんであんたと寝なきゃなんねぇだよ?と見ていたけど、その子がどうしたかなんて、僕には関係の無い話だった。夢を実現させるのに必要なこと、出来れば通りたくないことなんだろうけど、巷では『今どきそんなのないない』なんて言われているが、実情は今でもあるんだから、本当のことがどこにあるのかなんて、自分の目で確かめてみればいいんだ。 だけど、僕の仕事は躰を求められる仕事ではなかったはずだ。けれど今、目の前で僕にキスの雨を降らせている人は、仕事にかこつけて僕に近付いて『運命の人』と手を取った。 だからこの人は、僕の『唯一』であって、僕の『初恋の人』でもある。人を好きになることがこんなに楽しくて苦しいことだと教えてくれているのは、この嶺岸樹という人物ただ1人だ。 「……も……お願い……樹をちょうだい……?」 もう指で慣らされた後孔はもっと奥への刺激が欲しくて、だらしないほどに涎を流し指が動く度にクチクチと卑猥な音を立てていた。 「もう少し慣らした方が良くない?」 そう聞いてくる声は、絶対にそんなこと思ってない口調だ。こういう時、主導権を持ってる方はズルいと思う。この人に出会う前は淡白、と言うよりもセックスにすら興味はなかった。それはたぶん、その性にもあるのだと思うけれど。僕がどう頑張ったって子供を宿すことはできても、その種を植え付けることが出来ないからだ。それが今では樹限定でセックスすることが当たり前になってたし、肌を触れ合わせることは好きだ。発情期に本格的に入った場合、精液を注いでもらわないとその熱は収まることがない。躰を合わせる時はお互いに発情状態になっていて、ラット状態になるから、吐精の時間も長い。 ちゃんと興奮してくれているんだ、男同士の場合、イくのもラット状態になるのも目に見えてわかるから、全てバレてしまう。巷に聞く『女は演技をする』と聞くけど、そんなものは出来ないし、樹とのセックスは樹が1回イくまでの間に2、3回は先にイッてしまう。 「……っっ、も……ほんと、挿入()れてもらう前に、はァ……出ちゃいそぅ……」 「良いよ、好きなだけイッてくれて」 語尾にハートマークがつきそうな声で楽しそうに樹はまだ愛撫をやめない的な宣言をした。 まだまだ、僕らの夜は長いようだった。

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