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第117話(樹目線)

キスをしてきたかと思ったら、発情期を早めてもいい、というのを合図にオレは抑えてたものを解放した。Ωのフェロモンを強引にこじ開けるというのは負担がかかるのか、苦しそうに喘いでいたが、花開くように今までとは比べ物にならない強い匂いが溢れ出した。 ――やっぱりこの匂いが好きだ スーッとその香りを吸い込むとクラクラするような、酔いが一気に回ったような気分になる。ここ最近感じてた匂いが強烈にオレを興奮させる。重ねる口付けも舌で這わせた肌も、どこもかしこも甘い。頬を上気させ、敏感に反応してくれる躰が嬉しくてパジャマタイプのTシャツを脱がしながら指や口唇でその肌を辿ると、小さな喘ぎと共に躰が反応していく。既視感を感じながらもまだ、完全には思い出せそうにない記憶の一部には、こういったことがあったのかもしれない、と感じとれることは多々あった。 この匂いを独占したい、この人の全てが欲しい、オレを『唯一』と言ったこの人は、オレが欲しい、と言えば全てを捧げてくるだろう。この人のこんな表情を見るのはオレだけでいい。 らしくもない独占欲はこの人にだけ向けられるもの。きっと、こんな気持ちで過去のオレはこの人を愛してた。でも、過去のオレは過去のオレだ。今のオレは今のオレとしてこの人を大切にしたい、という気持ちが湧き上がってくる。きっとそれはお互いの中にある『運命の番』としての本能かもしれない。これが本能なのだとしたらオレは2度も同じ人を選んだんだから、間違いはないと確信する。 目覚める前から感じていた匂い。発情してなくてもこの人からの匂いはずっと感じていた。 けれど欠損した記憶はその人の名前を覚えてはいなかった。この匂いの主は誰なんだろう?すごくいい匂いだ。最初は発情しているΩが近くにいるのではないか?とも思ったが、消毒液の匂いに負けないほどの存在感を放っていたこの匂いは 去っては現れ、去っては現れる。それが時間の経過だったとは意識のないオレにはわかっていなかったが、『樹』と呼ぶ声も優しく悲しい。手を伸ばしてやりたいのにその声の主には届かない、その顔すらぼやけたままだ。 目覚めたオレはその人によりにもよって『誰?』と言い放った。その時の絶望に満ちた表情は見て見ぬふりをしてしまった。その後はあの時のことがなかったかのように『パートナー』としてではなく『世話係』というポジションでこの人は振舞った。 それでも『親』であることは捨てられず、子供たちを連れてきた時に驚いたのは『浬』だ。『昶』もオレの面影を残しつつあるが、浬は生き写しだ。そこで混乱したのはこの子供たちを産んだ人物だ。雅には違いない、と思いつつも自分が『唯一無二』を見つけていたことに疑念を抱いた。記憶の中にこの人がまだいなかったからだ。けれど、現実には間違いなく99.9%のオレの遺伝子が目の前にいる事実。何かの間違いで出来てしまった子供たちとして矛盾するのは2人の年の差だ。間違いで生まれたなら、1人のはずだし、4年後にまた間違いが起きる、というのも不可解な話だ。だとしたら、となるのがイコールな気がした。 何が本当かを見定めるべく、今に至るのだが、間違いなくオレはこの人を慈しみ愛していたのだと肌に触れて思う。オレの好みを知り、いつもオレを最優先にしてくれたこの初心(うぶ)な反応を示す腕の中の人が可愛くて仕方ない。少なくても発情期が来る度に抱いていたであろうにも関わらず、抱かれ慣れていない反応を見せるこの人が愛おしくて仕方ない。オレの全てをこの人に委ねてもいい、と思うくらい愛おしさが増していく。酩酊するような香りの中で自分の手で乱れていくことに、下半身は痛いほどに張り詰めている。 Ωは番以外との性交渉をすると拒否反応が出る。入院していた期間などを含めると、久々のセックスのはずだ。隅々まで感じさせてゆっくりとその躰を解して蕩けさせたい。躰をまさぐりながら服を脱がし、自分も脱いでいく。2人出産したとは思えないその細い躰に口唇と舌を這わせながら、その躰を味わう。同じ男だから同じものがついているが、嫌悪感は無い。雅以外は絶対に無理だ、と思う。勃ちあがり雫を流すそこにキスをして口の中に含むと甘い声が大きくあがり、その躰を揺らした。 「あぁ……あ……はぁぁん!!」 その声が完全に腰にクる。 早くひとつになりたい衝動を抑えながら、ゆっくりと所有の証をつけていく。ぐっしょりと濡らした蕾へ指を滑らせ溢れるそれを指に纏わせ中に侵入させる。本能が覚えてる感じる場所を的確に押しながら指を増やしていく。招き入れるようなその動きに、求められてる気がして嬉しくなった。

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