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第120話
ダルい躰にムチを打って子供たちの朝食を……と準備をしていると浬が起きてきた。
「浬、おはよう」
「……雅さん、おはよう……なんか匂いが……」
浬が起きてきて、雅の匂いを嗅ぐ。
「発情期、来週だよね?なんで?」
――なんで親の発情期を把握してるの?この子…
いくら番がいても、子供達αも匂いを感じれるというのはむしろ問題しかない。昶はまだ何も言わないけれど、そのうちに浬のように言うようになるのだろうか?
「……悪い、今日はオレがやろうと思ってたのに出遅れた。」
「大丈夫、これは僕の役目だから……」
そう言って雅は優しく微笑む。そんな両親を見て、浬の機嫌がさらに悪くなる。
樹は浬の隣に腰を下ろすと大きく欠伸をした。雅が昶を起こしに行ったタイミングで浬は不快感を丸出しにして隣に座る男に視線も向けずに口を開いた。
「……あんた、やりやがったな?記憶ないくせになんで雅さんにちょっかい出すんだよ?あの人からあんたの匂いがプンプンしてるし、あんたからも雅さんの匂いがする……」
「……おい、色気づいてんじゃねぇぞ?クソガキ、おまえもあの匂いにやられてるクチか?本当にばっかじゃねーの?20年早ぇんだよ。残念だな、雅はオレが好きなんだそうだ。あれはおまえには譲れないな。おまえからの提案は破棄だ。オレは自分の番を誰かと共有する気もないし、番っている限り、雅はオレ以外は受け付けない。どちらにしたっておまえが成長するだけ雅だって歳をとる。諦めろ。自分でちゃんとしたパートナーを探せ。他人でな」
まだ年端も行かない子供に向ける言葉だとは自分も大人気ない、と思うが、この浬の思考回路は厄介だ。間違いなく雅を『親』と理解はしてるが、それとは別に一人の『Ω』として認識している。子供が母親に向ける愛情ではなく、恋愛感情を向けていることが大問題だ。Ωのフェロモンに当てられて暴走するαやβとこれは意味が違う。これが他人でも雅が心配になるが、実の息子にその傾向があることに気が付いてないわけがない。きっと樹が入院している時も1人で考えていたはずだ。
これは2人で考えなければいけない問題だと思うが、浬が今の自分の言葉を素直に受け取るとは思えない。だからあんな提案をしてきたのか、という言葉の意味も理解する。
あわよくば自分のモノにしたい、という意味だと解釈している。自分の息子であれど、雅のあの表情 を見せるつもりはない。乱れる雅の姿を独占したい気持ちは強い。この後は雅を休ませてやりたいし、無理をさせた感はある。
また、夜になればまた熱をもってくるだろう。Ωの躰のことを詳しく理解してるわけではないが、たぶん失った記憶の断片なのだろう。
そんな気がしていた。
強引に発情期を早めてしまったし、セックスの経験なんてほぼ皆無だったが、本能の赴くまま躰を繋げた。相性は最高にいいと思うし、躰やら口付けた時の甘さは、ほかの女優やΩと仕事をした時にも感じたことはない。役者だからキスシーンがない訳ではないし、役の中でのキスシーンやベッドシーンは何度となくしてきたが、あの甘さを感じたことは1度もない。
やはり、雅は特別なのだ、と思う。
DNAというのは恐ろしいものだと思った。第一印象の『99.9% オレのコピー』だと思ったのは間違いではなさそうだ。例え親兄弟でもフェロモンに当てられて、という事故はないことではないが、フェロモンが出てようが出てまいが、この息子にはそれが通用しないことくらいは理解出来る。一途なことは決して悪いことでは無い。が、それを親に向けるというのは異常事態だということはわかる。
これまでの自分は浬とどのように接して来たのか、全く記憶にない。今のような子供のケンカのようだったのか、浬は浬でその気持ちを表に出していたのかいなかったのか?
「今日の送迎、オレやろうか?」
「目立つのでやめてください。保護者がパニックになって学校側に迷惑をかけてしまいますよ?運転だけお願いすることにします」
やんわりと断るものの、連れて行ってはくれるようだ。そうやって日常を取り戻せばいい。
失った過去よりも、これからを作りあげなければならないのだから。
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